とうかつ中央農協事件(東京高判平25・10・10) 農協批判文書の配布で懲戒解雇、無効とした一審は 処遇の不平不満に過ぎない
農協批判文書の配布や無断欠勤による懲戒解雇を解雇権濫用とされ、農協が控訴した。東京高裁は、文書は人事上の不平不満を述べるに過ぎず、配布先は内部で情報漏えいはないなど懲戒解雇事由に該当しないとした一審判断を維持した。無断欠勤はヘルニアによるもので正当な理由がないとはいえず、指定医の受診も命じていないなど、解雇は合理性相当性を欠くとした。
内部で漏えいない 合理性相当性欠く
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
本事件は、控訴人Y農協(一審被告)に勤務していた被控訴人X(一審原告)が平成21年3月21日付で懲戒解雇されたところ、Xより、解雇無効を前提として、平成24年3月末日に定年退職したとして退職金およびその遅延損害金と、平成21年3月分から定年の日までの未払賃金およびその遅延損害金を請求して提訴した事件の第二審である。
Y農協は、組合員のためにする農業の経営および技術の向上に関する指導等を目的とする組織である。Xは、昭和48年にY農協の前身である旧A市農協に採用された(平成20年7月1日、他の2農協と実質的に合併し、名称をY農協に変更)。
平成18年4月1日付にて、Xは訴外D社への出向を命じられた。D社において、Xは運転手の一人として稼働し、荷物のトラックへの積み込み、搬送、積荷を降ろして搬入する作業を行った。
5月頃よりXは全身に疲労を感じるようになり、医師の診察を受けたところ、うつ状態であり、「車の運転は危険を有する」旨の診断書が作成された。また、平成19年9月22日、右肘・左肘関節捻挫、右足関節捻挫であるといわれ、週3日通院するようになった。
12月、Xは、旧A市農協が、高齢者に対して本人の弱点を見抜いた人事をしていること(力のない人は力仕事へ、営業向きでない人は営業へ等)、ボーナス・退職金が減少していること、異動後の業務で右腕が動かなくなったこと、いずれも黒字経営の旧A市農協外2農協の合併により100人以上のリストラが出ることなどを記載した文書2通を、Xが差出人であると表示して旧A市農協監事らに送付した(以下、「本件文書配布行為」という)。…
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