エスツー事件(東京地判令3・9・29) 配属部署が存続不能で新卒留学生の入社困難に 拙速な内定取消しを認めず
採用内定を取り消された留学生が損害賠償を求めた。会社は、配属先の責任者が退職したため事業が存続不可能などと主張した。東京地裁は、勤務場所や職種の限定もなく、内定取消しを回避すべくあらゆる手段を検討すべきと判断。財務状況の悪化は認められるが、責任者の退職から2週間後の取消しを拙速とした。試用期間を超えて働く蓋然性を認め、半年を限度に損害金を算出した。
回避する努力怠る 職種限定なかった
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y社はサーバーホスティング事業等を営む会社である。X1らはネパールまたはベトナム国籍を持ち、母国および日本で日本語を学んだうえで、専門学校(以下「B学園」)にてITデザイン等を学んでいた。
Y社は、ニアショアサービス事業(首都圏の法人顧客へのシステム開発等を地方都市で提供するサービス)への参入を検討していたところ、同分野の専門家とされるEがY社に入社したことからEを執行役員とし、同事業を主たる事業とするDLABO(以下「D」)を新設してEにその運営のほぼ全権を委ねた。
平成29年9月ごろ、X1らは、B学園経由で有料職業紹介事業を営むC社からの紹介を受け、Y社の採用面接を受けた。
平成29年10月以降、X1らは、勤務開始日を平成30年4月2日、勤務場所をD事業部等とする採用内定通知書を受領し、同年10~12月までの間に、入社承諾書等をY社に提出した。なお、Y社の就業規則には、「業務の都合により必要がある場合は、社員に異動を命じ、または担当業務以外の業務を行わせることがある」旨の規定があった。
平成29年11月、C社は、Eに確認のうえ、「X16も経理職で採用してもらえる」旨のメールをB学園に送信し、X16はY社の面接に備えた。
平成30年2月頃、Eが他社名義でY社と競業可能性のある業務を行っていること等が発覚し、同月13日、EはY社を合意退職した。Eの退職後、Y社には他に開発の経験者がいなかったため、Dの事業見通しが立たなくなった。…
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