片山組事件(東京地判平5・9・21) 現場監督従業員に対する自宅治療命令と賃金支払義務 ★

1994.02.21 【判決日:1993.09.21】
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就労拒絶は相当性を欠く

筆者:弁護士 安西 愈(中央大学講師)

事案の概要

 本件は、従業員が疾病(私病)にかかったときに、使用者はその従業員の担当業務との関係でいかに対処すべきかが問題となった事案である。

 使用者である被告会社(土木建築の設計施工業者)の現場監督業務に従事していた原告が、病気(バセドウ病)と診断された。原告は、同病が特異なもので遺伝の問題があることから、他人には知られたくないとして被告会社に病状報告をせず、薬物服用による通院治療を受けていたが、次の現場工事までの間、本社で設計図面作業をしながら待機していた。

 その後会社が、本件現場勤務命令を発したところ、原告は「自分は病気である。現場作業はできない」と述べた。部長は、課長と相談のうえ診断書を提出する等の必要な手続きを経ることを指示した。原告は現場への赴任に際し、課長に対し、現場作業ができないこと、午後6時以降の残業はできないこと、日曜・祭日等の休日出勤ができないことの三点を要望した。これに対し課長は、右要望を容れて、現場事務所での各種図面の作成等に従事させ、午後6時以降の残業及び休日出勤を命じなかった。

 会社では、詳細に原告の病状を把握する必要から、文書で病状と要求を提出するよう指示した。原告は文書に、「バセドウ病(甲状腺機能冗進症)の治療中であり、疲労が激しく、心臓動悸、発汗、不眠、下痢等を伴い抑制剤の副作用による貧血等も症状として発生しています。未だ暫く治療を要すると思われます」「担当医師の『今後厳重な経過観察を要する』と診断の通り、治療の為、本人所属の組合質問の労働条件は不可欠と思います」と記載し、これを提出した。

 会社は、原告に対する処遇を検討した結果、総合的に判断し、被告の産業医に相談するまでもなく、原告が訴えている症状であれば健康を回復して現場監管業務に従事させることのできるまでの間、自宅で病気治療に専念させることが妥当であるとの結論に達し、そこで、被告は本件自宅治療命令を発した。

 そして会社は、右疾病による治療のための休業期間につき、賃金を払わなかったところ、原告が、右自宅治療命令は、その必要がないのに、または不当労働行為として発せられたものであるから無効であるとして、その期間(約4ヵ月間)の賃金と一時金との支払いを求めたものである。

判決のポイント

 本判決は、…

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平成6年2月21日第1997号10面 掲載
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