朝日火災海上保険事件(最二小判平6・1・31) 労組と口頭で合意した賃上げ分不算入の退職金で差額請求
1994.04.18
【判決日:1994.01.31】
周知すれば“黙示の合意”成立
筆者:弁護士 宮本 光雄(経営法曹会議)
事案の概要
上告人会社とその従業員で組織する労働組合は、退職金制度の改訂に関し協議を続けていたが、昭和54年度賃上げ交渉において、本俸引き上げ額は同年度の退職金算定の基礎に算入せず、同55年度以降の取り扱いは退職金制度改訂協議の中で協議決定する旨口頭で合意した。
昭和56年度、57年度の賃上げ交渉においても、会社は、退職金算定の基礎に算入しないことが賃金引き上げの絶対条件であるとし、組合もこれを了承して妥結した。
このことは、非組合員である被上告人を含む従業員全員に「労使問題速報」等の文書により配布、周知されたが、被上告人ら従業員は異議なく当該賃上げ後の賃金を受領し、このような状態の中で被土告人は昭和58年3月31日、自己都合退職した。
会社は、退職金の算定に当たり、前記各年度の賃金引き上げ額を退職金算定の基礎に算入しないで計算した額の退職金を支払ったところ、被上告人(原告、控訴人)がその差額を未払い退職金として請求した。
一審は請求を棄却したが、二審は請求を容れたため、会社が上告したものである。
判決のポイント
前記事実関係からすれば、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら
平成6年4月18日第2005号10面 掲載