塩釜缶詰事件(仙台地判平3・1・22) 転籍社員の退職時に退職金を支払う義務を負う使用者は? ★
“権利譲渡”なら転籍先に
筆者:弁護士 安西 愈(中央大学講師)
事案の概要
子会社の分離独立に伴い移籍した社員の退職金の支払義務は、元の親会社にあるのか移籍した子会社にあるのかが問題になったのが本事案である。
被告Y社は、昭和28年に設立されたが、その後まもなく経営不振に陥り、A水産会社の子会社としてその支配下に置かれることとなった。原告は昭和47年4月1日に被告Y社に出向を命ぜられて、被告に勤務していた。Y社は昭和53年9月30日、親会社のA水産から離れて独立した。原告はこのとき被告に留まることを望んだので、A水産から出向を解かれて同社を退職するとともに、以降被告の社員として被告に勤務することになった。
親会社のA水産は、被告Y社がA水産から独立した際の取り扱いとして被告に対し、昭和53年10月12日付けの『退職金明細』と題する書面を送付した。これにはA水産から被告へ出向していた者について、被告に留まることを望んだ者(原告を含む4名)とA水産に戻ることを望んだ者(8名)について、当時の時点での退職金額を計算し、Y社に留まり移籍となる者についてA水産が負担し、被告に送金すべき分と、A水産に戻る者について被告Y社の方が負担しA水産に送金すべき分とを合計して計算し、その両者の差額をA水産が被告に送金する旨の記載がある。右書面に記載された原告の退職金合計額は612万3000円である。
これに対し、被告Y社としては、原告が親会社のA社に在籍中の退職金までの支払い義務はなく、またA社から支払いの委託を受けたこともないとして支払いを拒否し、自社に移籍後の退職金はすでに支払いずみであるからと請求の棄却を求めた。
判決のポイント
事実認定によれば、…
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