安田火災海上保険事件(長崎地判平6・9・6) ノルマ達成のためのバーター預金に、顧客の保険料を流用

1994.12.26 【判決日:1994.09.06】
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懲戒解雇に当たる不正行為

筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)

事案の概要

 Y会社は、大手損害保険会社であり、XはY長崎支店の自動車営業課の課長職にあった。Xの所属する九州沖縄地区は、業界第1位のシェアーの地位を確保するため、積立保険等の獲得を積極的に推奨していた。ところが大口の保険料収入のあった顧客a社との取り引きの縮小という事情が発生したため、自動車営業課では、阪売成績の達成が困難化する状況となった。そこでXは、金融機関を通じて積立保険を獲得することを考えたが、金融機関から積立保険の顧客を紹介してもらうためには、銀行に対して預金の設定をなすことが求められた(「バーター預金」と呼ばれる)。銀行側は、法人預金から個人名義の預金を求めるようになった。Xは、当初は自己の手持資金を用いて銀行にバーター預金をなしていたが、自己資金では不足するようになったことから、Y会社の代理店から集められた収入保険料合計4000万円余りを領得、流用し、銀行への預金設定の資金とした。そのために不足した右保険料分の穴埋めに部下たちの名義を用いて訴外クレジット会社との間で架空の保険料ローンを締結し、クレジット会社から振り込ませた金銭を不足した保険料としてY会社に納入した。

 Y会社は、右のXの行為についてY会社就業規則第66条第1号「会社の規定に違反した場合」及び同第5号「故意または重大な過失により、会社に損害を与えまたは会社の信用を傷つけた場合」に該当するとして懲戒解雇処分に付した。

 Xは、本件の行為はY会社の利益を考え、またノルマ達成のために行ったもので、Y会社に対して実損も与えていないし、本件がマスコミ等で報道されているわけでもないから、本件懲戒解雇は解雇権の濫用であるとして、長崎地方裁判所に提訴した。

判決のポイント

 一、Xの本件行為は、

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平成6年12月26日第2038号10面 掲載
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