X事件(横浜地判令4・3・15) 美容院店長が顧客情報利用禁止の仮処分求める 退職後も秘密保持義務負う
美容院のオーナー店長が、退職した元従業員に対し顧客情報の利用禁止を求める仮処分を申し立てた。横浜地裁は、雇用時に結んだ退職後も営業秘密を保持する誓約書を有効とし、2年間の営業活動等を禁じた。顧客名や電話番号等データベース化し管理していた情報を利用したことで、売上げ等の営業上の利益を侵害するとした。在職中に情報秘密保持手当を支給したことも考慮している。
入社時に「誓約書」 在職中は手当支給
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
債権者は、申立外会社との間で、同会社が運営する美容室の運営業務の委託を受け、債権者が雇用した美容師を就労させ、同社から支払われる業務委託料を原資として被用者の賃金を支払うとともに、収入を得ていた。債務者は、平成27年3月、債権者と雇用契約を締結し、本件店舗にて美容業務に従事していた。
申立外会社は、神奈川県を中心に14店の美容室を運営しており、同美容室は地域密着型であった。また債務者は、雇用契約締結時に、債権者に対し、退職後も、「在職中に知り得た会社及びサロンの取引先(顧客)の経営上、技術上、営業上その他一切の情報(個人情報を含みます)」についての秘密を保持する旨の誓約書兼同意書(以下「本件特約」という)を提出し、また在職中、債権者から情報秘密保持手当として毎月5000円ないし1万4000円の支給を受けていた。申立外会社は、各美容師が取得した顧客の情報(顧客名、住所、電話番号等)をデータベース化して管理していた。
令和3年10月以降、債務者は、転職を意図し、横浜市内の複数の美容室を見学し、また本件店舗に設置されたパソコンを操作して本件店舗において同人が接客した顧客のデータを閲覧し、その顧客情報を携帯電話に記録し、同年12月30日、退職した。
債権者は、債務者に対し、神奈川県内および東京都内において、仮処分決定後2年間、債務者が自身の顧客にする意図で顧客に電話をかける等の営業活動や、顧客情報を第三者に開示提供することの禁止を求める仮処分申立てをした。
判決のポイント
①本件特約は、…
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