リクルートスタッフィング事件(大阪高判令4・3・15) 有期派遣スタッフは交通費なく不合理な待遇? 手当不支給の仕事自ら選択
通勤手当の支給がない登録型の派遣スタッフが、労契法旧20条の不合理な労働条件として損害賠償を求めた事案。一審は請求を退けた。大阪高裁は、短期雇用であり配転の可能性は少なく、手当が支給される業務を選択できたことなどから控訴を棄却した。通勤交通費の負担を考慮して時給を設定し、競合他社と比べて高めに設定したことも不合理性判断の要素としている。
時給決定時に考慮 競合他社とも比較
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y社は人材派遣事業等を業とする株式会社である。Xは、平成15年6月11日、Y社のA1事業所において、派遣スタッフおよびOSスタッフ(Y社が受託した業務に従事するスタッフ)等として登録し、平成16年6月~29年6月までの期間、断続的に、Y社との間で、派遣スタッフまたはOSスタッフ(以下「派遣スタッフ等」)として、派遣就労等にかかる有期労働契約を締結して、派遣先事業所等において業務に従事した。
Y社では、雇用形態等の相違によって職種が区分され、職種ごとに異なる就業規則、給与規定または給与規程(以下、総称して「就業規則等」)が定められている。
Y社は、平成26年9月~29年6月30日までの間、Xに対して通勤手当の支給をしていなかったが、無期労働契約社員のうちの一区分の社員に対して、1カ月定期代(上限なし)の通勤手当を支給しており、両者の間には通勤手当の支給の有無について相違があった。また、Y社は、無期転換スタッフに対して1カ月定期代(ただし、1カ月の上限は1万円)、CWスタッフ(無期派遣労働者)に対して1カ月定期代(ただし、1カ月の上限は3万円)の各通勤手当を支給し、派遣スタッフ等と無期転換スタッフおよびCWスタッフとの間には通勤手当の支給の有無について相違があった。
派遣スタッフ等の賃金(時給)を決定するに当たって、派遣スタッフ等の募集における競合他社との競争が意識され、通勤手当を支給しないことを前提としつつ、通勤交通費の負担を勘案して、総合的な労働条件を競合他社(通勤手当を別途支給する事業者を含む)に比して遜色のないものにすることが意識され、時給が決定されていた。
Xは、無期労働契約を締結している従業員とXとの間には、本件相違が存在し、同相違は労働契約法20条(平成30年改正前)に反し、通勤手当の不支給は不法行為に当たるとして、Y社に対し、通勤手当相当額の不法行為による損害賠償等を請求して提訴した。一審判決(大阪地判令3・2・25、本紙3329号)はXの請求を棄却したため、Xはこれを不服として控訴した。
判決のポイント
派遣労働者について、…
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