エス・バイ・エル事件(平4・9・18東京地判) 懲戒委員会の審議を経ずになされた懲戒解雇の効力は
「実体的真実の把握」に軍配
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は住宅を中心とした建築施工と分譲などを営む株式会社であり、原告は平成元年3月31日に入社して営業社員として勤務していた。
原告は、協調性のない独善的な性格で、従前から上司への反抗や粗暴な言動を繰り返し、その性格について注意を受けていた。平成2年6月23日、原告は、同人に対し女子社員に交際を求めることをやめるよう説得しようとした上司に抗議すベく興奮状態で当該上司を探したが見当たらなかったところ、同人の異常な行動を制止しようとした他の上司に対し激昂して掴みかかり、他の社員の面前で、その上司のネクタイを力任せに引っ張るといった暴行を行ったため、被告は原告を同年7月2日、就業規則に違反し懲戒事由に該当するとして懲戒解雇にした。
被告の従業員懲戒規程には、懲戒を公正に行う目的で審議答申のため、懲戒権者である社長の任命する懲戒委員会を設けることがあり、同委員会の審査に付せられた者は同委員会に出頭し立場を弁明することができると定められているが、原告の暴行については、懲戒委員会を開かず、人事部長が被害者や目撃者から事情聴取のうえ、原告からも事情を聴取した。人事部長は、原告の暴行を確認するとともに、原告の独善的非協調的性格が全く改善されておらず、本件暴行についても全く反省していないことから、このまま放置すれば社内秩序が乱れ、他の社員の間で不安が増大するおそれがあるとして懲戒解雇もやむなしと判断し、その旨を懲戒権者である社長に具申して本件懲戒解雇が決定された。
原告は、本件懲戒解雇が前提となる事実関係を誤認し、かつ動機などの情状面や他の処分との均衡を考慮せず行ったものであることや、懲戒規程に定める手続を履践しておらず原告に十分な弁明の機会を与えないまま行った手続違反があることから、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用で無効であると主張して地位確認等を求める本訴を東京地裁に提起した。
東京地裁は、被告は原告への事情聴取も含め十分な調査、検討のうえ決定したものというべきであり、本件懲戒解雇手続について手続違反はないこと、原告の暴行が決して偶発的一過性のものではなく、原告の性格に根ざしたもので、今後同様の事態が発生することが十分予想されるのであるから、懲戒解雇という手段を選択したことはやむを得ないことを理由に、本件懲戒解雇が懲戒権の濫用に該当するとはいえないと判示して原告の請求を棄却した。
判決のポイント
被告の従業員懲戒規程の文言によれば、懲戒委員会は必ず開かなければならないものではなく、これまで…
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