昭和女子大学事件(平4・12・21東京地判) どうなる?真意によらない退職の意思表示の効力
本心を知っていれば無効
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、女子大学等を設置、運営する学校法人である。
平成2年4月1日に短期大学部教授に任命された原告は、卒業生教員である助教授と学生指導上の意見の相違から対立したことにつき、平成3年1月23日に学長から呼び出され、事情聴取を受けた。
数日後、原告は、学科長から学長には謝罪すべきだと勧められたものの、特段の対応をとらないまま時日を経過した。さらに、同年2月20日、原告は学監から「詫び状」を書いて謝罪するようにと示唆された。同大学では学長の意向次第で地位の帰趨が決まるという事情もあり、大学を追われることになるのを恐れた原告は、同月27日、自ら作成した「詫び状」を持参して学長に手渡そうとしたが、受領を拒否された。
同年3月9日、原告は、学長から呼び出されて、「契約前の相互了解事項」に違反し、既に資格を喪失していると言われ、勤めを続けたいのであればそれなりの書き物を提出するようにと指示された。原告は、短期大学部の教授として残りたいという強い希望から、恭順の姿勢を最大限に示すためには、自ら進んで退職する意思のあることを示す文書を提出した方がよいと思うに至り、「退職願」を作成し、同月12日に再び学長から呼び出された際、その面談の席上で、学長に提出したが、「今後も勤務を継続する中でもう一度やり直して大学のために努力したいという気持ちである」と明言した。学長も原告の右真意の表明をその場で聞き了解した。
原告はさらに同月末、学長に対し謝罪の意思を示すとともに、従来の勤務を継続したい旨述べたが、被告より4月1日から暫くの間、有給休暇願を提出して自宅にいるように指示された。その後、被告は原告を研究所への配置転換や勤務期間を同年9月までとする形式をとるなどの在職のための条件を提示したが、原告はこれを受け入れなかった。
被告が自宅待機中の同年5月分以降の賃金を支払わなかったため、原告が同年6月13日に賃金の支払いを求めるため訴訟を提起し、併せて地位確認を訴求したところ、被告は前記「退職願」を申し込みとする合意解約が平成3年9月末日をもって成立したと通告した。
判決のポイント
本件退職願は、文面上は退職を希望する意思表示のように記載されているが、その実、退職を余儀なくされることを何とか回避しようとして作成されたものにすぎず、しかも、…
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