さくら銀行事件(平5・3・25東京地判) 業務上疾病と企業の安全配慮義務違反との関係は
“承知”の上での放置はダメ
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
原告は、日本橋支店において、昭和39年10月頃、証券係に配属され、主として保管業務に従事し、1日約4000枚(多いときは約8000枚)の株券及び債券を数え、貸付係の指示に基づき1日約100枚(多いときには約600枚)の利付債券を和ばさみで切り離す作業と、これに付随した各種書面の作成を行っていた。昭和46年6月頃に本店人事部に異動して以降の原告の業務は、使送、文書整備、コピー作業を中心とした軽作業であった。
原告は、昭和45年8月17日から受診していた被告本店医務室整形外科において、両手、両肘、左肩を中心とした痛みを訴えた。その後、原告は手指・上肢等の症状について、同47年2月15日に「手根管症候群」、同48年4月3日に「右母指中手基節間関節変形性関節症」の診断を受けて、治療を続けたが、運動障害などの後遺障害及び醜状障害が残った。
原告は、被告が安全配慮義務に違反して、上肢の症状を発生させ、また各疾病に罹患させ、これを悪化させたと主張して、休業損害、後遺障害による逸失利益及び慰藉料として合計約4300万円の損害賠償を請求した。
東京地裁は、症状の一部と原告の業務との因果関係及び被告の安全配慮義務違反を認めて原告の請求を一部認容し、被告に対し損害賠償金110万円の支払いを命じた。
判決のポイント
原告の日本橋支店における業務の内容・形態・程度はいずれも、手や手首の動作が比較的単純かつ反復継続するものであり、原告はこれらの作業に従事し、そのため、…
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