東洋建材興業事件(平4・10・26東京地判) 合意退職が成立するにはどのような承諾が必要か
口頭でなく書面が望ましい
筆者:弁護士 山田 靖典(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、昭和63年1月18日、営業部長として月給40万円、毎月20日締切25日払いの約定で以前に勤務していたY社に雇用されたが、同年8月7日、Y社近くの喫茶店において、Y社代表者に対し、同僚が昇給し賞与の支給を受けたとして、自分にも昇給と賞与支給を求めた。しかし、Y社代表者は、その同僚の場合は交際費や役付手当であって昇給ではなく、また賞与の支給はしていないと説明して、Xの右申し出を拒否したところ、Xは怒り、席を立って帰社し、名刺を屑籠に捨てて退社した(Xが喫茶店での話合いの際にY社を「辞める」と言ったか否かは争いがある)。
そして、Xは、翌8日から同月20日まで、Y社に何らの連絡をせず出社しなかった。そこでY社はXが自ら退職したものとして同月17日にXが所持していた鍵と健康保険証の返還を求めた。Xは、同月20日に来社し、鍵を返還したが、健康保険証はXの妻が病気で使用中ということで持参しなかったので、Y社が健康保険を継続使用できるように手続きをすることを話し、その後、その手続きをし、健康保険証の返還を受けた。
なお、同月7日分までの賃金は支払いずみである。
そこで、Y社はXが合意退職したものと扱った。
これに対し、Xは、Y社を辞めるとは言っておらず、従って退職の意思表示をしたことはないとして、合意退職の効力を否定し、Y社の社員たる地位の確認と賃金等の支払いを求めて提訴した。
判決のポイント
Xの退職の意思表示に対する当日のY社の態度としては、Y社代表者が、同日の喫茶店でのやりとりの際、Xが当該意思表示をして席を立ったのに対して、…
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