国鉄鹿児島自動車営業所事件(平5・6・11最二小判) 組合員バッジの取外しを拒否した職員に降灰除去作業は? ★
職務専念義務違反でOK
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
上告人(被告・控訴人)は、昭和60年当時、国鉄の鹿児島自動車営業所の営業所長であり、被上告人(原告・被控訴人)は同営業所の運輸管理係で、国鉄労働組合の組合員であった。当時国鉄は、職場規律の乱れが内外から指摘されてその是正が求められたため、鹿児島営業所の上級機関である九州地方自動車部は、傘下の各営業所に対して、職場規律の確立に力を入れるよう指示し、職員の服装の乱れの是正、勤務時間中のワッペン・赤腕章等の着用の禁止及び職員に氏名札の着用を行わせることを指示した。上告人は、職員に対し、右指示に加え、氏名札と着用場所が競合する国労の組合員バッジの着用を禁止し、着用者に対して取外し命令を発していた。また、上告人は、組合員バッジの取外し命令に従わない職員に対しては当該職員の担当する本来の業務から外すよう、自動車部から指示を受けていた。
上告人は、被上告人が組合員バッジを着用したまま点呼執行業務を行おうとしたため、組合員バッジの取外し命令を発したが、命令に従わなかったので、被上告人を点呼執行業務から外し、かなりの不快感と肉体的苦痛を伴う作業である構内の降灰除去作業に従事すべき旨の業務命令を発した。
被上告人は、上告人らの降灰除去作業の業務命令が労働契約に根拠をもたず、組合員バッジの取外し命令に従わなかったことに対する懲罰的な報復であり、不法行為を形成するとして、精神的苦痛に対する慰謝料50万円を請求した。
第一審判決(昭63・6・27鹿児島地判)及び控訴審判決(平元・9・18福岡高宮崎支判)は、降灰除去作業は労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえず、また組合員バッジの着用は、職場規律を乱し職務専念義務に違反するものであるから、上告人がした取外し命令及びこれに従わなかった被上告人を点呼執行業務から外した措置には、いずれも合理的な理由があり、違法なものとはいえないが、本件各業務命令は、殊更降灰除去作業を命ずべき必然性はなかったのに、本件バッジの取外し命令に従わなかったことに対し、懲罰的に発せられたものであり、かなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせることは、業務命令権の濫用で違法であり、本件業務命令は、不法行為に当たるとして、慰謝料10万円の支払いを命じた。
上告審判決は、控訴審判決を破棄し、被上告人の請求を棄却した。
判決のポイント
降灰除去作業は、営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、…
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