帝国臓器製薬事件(平5・9・29東京地判) 共働き者が転勤命令に伴う単身赴任に損害賠償を請求 ★
不利益は甘受すべき範囲内
筆者:弁護士 加茂 善仁(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、Y会社に勤務するX1が、Y会社東京営業所から名古屋営業所への転勤を命ぜられ、この転勤命令によりY会社で共働きの妻X2及び子供らと別居せざるを得ない単身赴任を強いられたとして、X1・X2ら(以下「X1ら」という)がY会社に対し、右転勤命令の違法・無効を理由に債務不履行あるいは不法行為による損害賠償を求めた事案である。
X1らは、以下のように主張した。
①本件命令は、ローテーションによる人心刷新という一般的な転勤の必要性しかなく、このような抽象的な必要性によって労働者がその居住場所を変更させられることは許されない。
②本件転勤命令は、夫婦が同居できなくなり、またX1はその意に反して子供達と離れざるを得ず、X2と協力・扶助し子を養育・監護できなくなるのであって、家族生活を営む権利を侵害するものであるから、民法90条の公序に反し違法無効である。
③労働契約において、労働場所の変更により、労働者に過重な負担を強いることになる場合には、信義則上の配慮義務として負担を軽滅させるための合理的な措置を講ずることが使用者に課せられていると解すべきところ、Y会社は、本件転勤命令につき合理的配慮をなすべき信義則上の義務を尽くさず、このような転勤命令は義務違反として無効である。
④本件転勤命令により、二重生活を強いられ出費が増大するとともに、X1及びX2の生活は子の養育を含め大きく変化するなど本件転勤命令は業務上の必要性と比較して不利益が大きく、権利濫用であり無効である。
⑤本件転勤命令は、右に述べたように無効であると同時に、X1の家族生活を営む権利への違法な侵害であり、また、夫婦・親子が同居し家族生活を営む権利、夫婦が協力して子を養育する権利、子供が両親から養育を受けるという基本的人権を侵害するものであるから、Y会社は故意による不法行為責任を免れない。
判決のポイント
Y会社の就業規則には業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の規定があり、Y会社では全国レベルの転勤を頻繁に行っており、Y会社とX間の労働契約が成立した際にも勤務地を限定する合意をしたことはないから、Y会社は、個別的合意なしに転勤を命じることができる。…
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