三和プラント工業事件(平2・9・11東京地判) 残業手当定額制の適法性 ★
“現実”を上回ることが必要
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件は時間外労働に対する賃金請求事件である。
会社は、海外でポンプ設備据付工事に従事させるため、Xを約8カ月間海外の工事現場に派遣することとし、Xとの間で次の約定をした。
・現地での作業はポンプ設備の受注会社の指示に従うこと
・業務の状況に応じ時間外勤務を指示する場合があること
・派遣の対価は月額63万円とし、時間外手当もこれに含むものとすること
派遣にあたり、Xは会社担当者より、残業は原則としてない旨の説明を受けていたが、実際には、海外勤務中に337.5時間の時間外勤務及び38時間の休日勤務を行った。そこで、Xは会社に対して右時間外・休日勤務の割増賃金の支払いを求めたものである。
本件は海外派遣という特殊な論点を含むものであるが、ここで取り上げるのは時間外労働賃金の定額払制である。すなわち、予め時間外手当を含む趣旨で、時間外労働の有無・時間の長短にかかわらず労働の対価を一定額に定めて支払う方式、いわゆる定額払制が労働基準法に違反するか否かという点にある。会社の主張は、通常の時間外労働の分をカバーするに足りる対価を約定したのであるから、右約定は適法であり、Xの請求は理由がないというものであった。
判決のポイント
本判決は、Xが会社に雇用されたうえ、海外に派遣されたものであることを前提に、次のように判示した。
①派遣の対価が会社主張のように通常の時間外労働の対価を含むものであったとしても、…
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