チェース・マンハッタン銀行事件(平3・4・12大阪地判) 配転命令と有効要件
公平欠く個人的事情考慮
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件は東京と大阪に支店を有する外資系銀行が、「大阪支店で採用した従業員9名を東京支店へ配転をしたため、その配転命令の有効性が争われたものである。
当時銀行は経営内容が急激に悪化したため、銀行全体の合理化計画を策定したが、その一環として業務悪化に陥っていた大阪支店において業務の統廃合を行った。その結果、必要人員の減少により業務部門16名中11名が東京支店への配転対象者とされたが、このうち9名が配転命令の効力停止を求めて仮処分申請したものである。
右9名はいずれも大阪支店で採用された大卒者、高卒者で、短いものでも14年以上長いものでは30年以上同支店で業務部門に従事してきた。また、9名中8名は女子で、そのうち4名は既婚・有子であった。このため、配転の有効性をめぐって、
(1) 各人の労働契約において勤務場所を大阪支店に特定していたか否か。
(2) 各人の家庭生活上の不利益からして配転命令が権利の濫用になるか否か。
が主要な争点とされた。
本判決は、(1)・(2)いずれも否定し9名の申請を却下した。
判決のポイント
争点(1)については、採用時の担当者とのやりとりで転勤はない旨の返答を受けた者がいた点も問題とされた。判決は大阪支店で過去に配転が行われてきたこと及び就業規則に「行員は銀行の判断に従って転勤あるいは担当の仕事を変更させられることがある」との規定を前提に次のように判断した。…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら