新評論事件(平3・12・10東京地判) 錯誤に基づく退職合意 ★
和解契約に当たれば有効
筆者:弁護士 山田 靖典(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、昭和62年3月30日、Y社との間で雇用契約を締結し就労していたところ、Y社は、同年10月1日、Xに対し同日限りで同人との雇用関係を終了させる旨を通告したが、Xの要請により同月31日まで雇用契約を延長し、更に同月28日、Xの再度の要請により同年11月末日まで雇用期間を延長した。
Xは、同年11月14日、Z労働組合に加入し、同組合と協議のうえ、同月24日、X名にてY社に対し、同年12月以降も雇用して欲しいなどを記載した要望書を提出したが、Y社はXの雇用継続を認めなかった。
そこで、Xは、同年12月3日、Y社に対し、組合に加入したことを通告して右要望書に関する団体交渉を求めたため、翌4日、X、Z組合書記次長とY社社長、同社員との間で団体交渉がもたれ、交渉が決着するまでXを従業員として扱うことが合意された。
その後、団体交渉が続けられ、昭和63年1月7日、XとY社との間で、「(1)略、(2)Y社は、社員が残業命令に従って残業し、残業手当を請求したときは、労働基準法の定めに従いこれを支払う、(3)ないし(5)略、(6)Y社はXに対し、これまでの残業料見合い分を支払う(支払額はX請求残業時間数×2分の1×750円とする)。(7)今後のXの就労については、就業規則に基づき、①就業時間は午前9時から午後6時とする。②就業については昭和62年10月1日以前の形態とする。Xの雇用期間は昭和63年3月31日までとし、同日をもってXは退職する。なお、Y社は離職票を発行する」を内容とする合意が成立し、確認書が作成された。
ところが、XはY社に対し、昭和63年3月30日の団体交渉において、翌31日に退職する意思はないと表明し、同年4月1日に出社したが、Y社はXの就労を拒絶した。
なお、Xは、同年3月31日にZ組合を脱退した。
以上のような経過のもと、XはY社に対し退職合意は効力を有しないと主張して雇用契約上の地位の確認等を求めた。
判決のポイント
Xが退職したかどうかについてXとY社間に争いがあり、交渉の結果、Y社がXの雇用契約上の地位を認めるとともに、Xが昭和63年3月31日限り退職することとしたものであるから、本件退職合意は民法上の和解契約に当たる。…
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