中国電力事件(平4・3・3最判) 職場外でのビラ配布と懲戒 ★
時間外でも秩序遵守義務
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
1、被上告人は電力の発電・供給を主事業とする会社であり、上告人7名は被上告人の従業員で、日本電気産業労働組合の組合役員である。
2、原発建設反対の基調と方針をとっている労働組合が原子力発電の建設予定地の住民に対してビラを配布することを決定したことに基づき、上告人らは、本件ビラの発行・配布の企画、決定に指導的役割を果たしたり、就業時間外に職場外で地区住民の各家庭で本件ビラ約800枚を自ら配布したりした。
3、本件ビラには「中国電力の社員も原発に反対しています」「島根原発の社員は地元の魚は食べません」「常に放射能がばらまかれる」「漁場が完全に破壊される」などの内容が記載されていたが、被上告人は、これからの内容が虚偽と悪意に満ちたものであり、上告人らが本件ビラを発行、配布することによって、被上告人が推進する事業があたかも不当な事業であるかのように宣伝し、関係地域の住民や各方面に会社に対する不信感と原発についての不安と誤解を与えて、被上告人の社会的信用を著しく失墜させ、かつ被上告人の業務を妨害し、被上告人に不利益を与えたものであり、上告人らは就業規則に定める懲戒条項の「会社の体面をけがした者」、「故意または重過失によって会社に不利益を及ぼした者」に該当するとして、求職もしくは減給の懲戒を課した。
4、上告人らは、右懲戒が無効であると主張してその無効確認並びに慰藷料を請求したが、第一審の山口地裁判決(昭60・2・1)及び控訴審の広島高裁判決(平元・10・23)はいずれも、職場外の行為でも、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある行為は、懲戒を課することも許されること、虚偽の事実を記載した本件ビラの配布行為は、企業秩序義務に違反し、懲戒事由に該当すること、虚偽の事実を記載したビラの配布行為に対する懲戒は、憲法19条、21条に反せず、また、ビラの配布行為は、組合活動の正当性の範囲を逸脱しており、懲戒は不当労働行為にあたらないことなどを理由に、上告人らの請求や控訴を棄却した。
判決のポイント
1、労働者が就業時間外に職場外でしたビラの配布行為であっても、ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をしまたは事実を誇張、わい曲して記載したものであり、その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら