大光事件(平2・12・10東京高判) 賃金債権の差押えと使用者からの相殺
要件満たせば相殺も可能
筆者:弁護士 加茂 善仁(経営法曹会議)
事案の概要
Y会社は従業員Aに対し、毎月の賃金のうち4分の1を天引きして返済する旨の約定(相殺予約)のもとに低利の融資を行った。
Aは、Xクレジット会社より借入れを受けていたが、約定の返済ができなかったため、Xは、AのY会社に対する賃金債権を民事執行法152条1項の限度(賃金の4分の1)で差し押さえたうえ、Y会社に対し、その支払いを求めた。
これに対し、Y会社は、前記相殺予約を理由にその支払いを拒否した。
一審(豊島簡判平2・2・28)は、差し押えを有効としたが、二審(東京地判平2・7・17)では、Y会社が天引き契約を相殺予約とし、X会社の差し押さえに対し相殺をもって対抗すると主張したため、右相殺予約が、労基法24条1項の本文の賃金全額払いの原則に違反しないかが争われた。
二審判決は、天引き契約は、使用者と労働者の合意による相殺でも使用者の一方的な意思によってなされる相殺と何ら異ならないとして、相殺予約を無効とした。そこでY会社は上告し、相殺予約の有効性を主張するとともに、仮に相殺が無効であっても、差し押さえの認められている範囲においては、相殺は認められるべきであると主張した。
判決のポイント
判決は、まず相殺予約の効力について「使用者による相殺が、当事者間の相殺予約に基づき、かつ、相殺の都度労働者の確認的同意を得て行われるものであっても、事実上それが労働者の自由な意思に基づくものであるかを確認することが困難な場合が多く、…
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