ザ・チェース・マンハッタン・バンク事件(平4・3・27東京地判) 事業閉鎖で責任者の解雇は ★
地位特定した雇用契約なら
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、アメリカの財閥で多国籍企業のロックフェラーグループの金融部門の中心をなす銀行であり、原告は、リース事業を含む外資系企業において営業部長兼財務部長の職にあったが、語学に堪能であったことから、転職し、昭和61年4月1日、被告との間で雇用契約を締結し、同年10月、被告の副支配人(バイスプレジデント)の資格を取得した。原告は本件雇用契約の締結と同時に、訴外会社=チェース・リング・ジャパン株式会社(被告と親会社を同じくするアメリカ法人、チェース・コマーシャル・コーポレーションの全額出資の会社)に出向し、昭和61年6月28日付でその代表取締役に就任した。訴外会社はコンピューターその他の事務用品機器のリース事業に参入するに際して、リース事業の経験豊富な即戦力労働者(転職・中途採用者)を被告の名前で募集することになり、採用後直ちにその実質的な責任者として訴外会社に出向する目的のもとに年間給与等金1351万2533円という高給を支払う約束で本件雇用契約を締結したものである。
訴外会社は、リース事業を開始した昭和61年及び翌年の昭和62年においては、営業収益よりも営業費用の方が多く、いずれも損失を計上したが、原告が昭和62年8月31日付で作成した昭和63年の業務計画では、同年の第4・四半期(10月から12月)には収支が均衡するとの見込みが示されていた。ところが、被告は、昭和63年6月9日付「閉鎖勧告書」に基づいてリース事業から撤退し訴外会社を閉鎖することを決定したとして、原告に対し、昭和63年7月に被告以外での雇用先を探し始めるように指示し、さらに平成元年3月29日付文書により、出勤を停止して再就職活動に専念することを指示すると共に90日後の同年6月30日に解雇する旨を予告した。そして、被告は、取締役の地位は、平成元年6月30日をもって任期満了により終了する同じ日である同年6月30日、原告に対して、同日をもって本件雇用契約が終了した旨を通知し、それ以後、原告は被告との間の雇用契約関係を争っている。原告の訴外会社における取締役の地位は、平成元年6月30日をもって、任期満了により終了している。
判決のポイント
本判決のポイントは、2つある。第1は、本件雇用契約の内容及びその目的である。即ち、…
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