朝日火災海上保険事件(平4・6・23東京地決) 労働組合活動家への転勤命令と不当労働行為
不当な動機・目的なら該当
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
債権者は、大学卒業後、債務者会社に入社し、大阪支店、京都支店、東京本店の勤務を経て、千葉県の木更津営業所に異動し、千葉の自宅から右営業所に通勤していた。債権者は、入社と同時に、全日本損害保険労働組合朝日火災支部に所属し、支部の副書記長、書記長、委員長、副委員長を歴任したほか、全損保本部書記長の職に就いていた。債権者は、本件転勤命令発令時点においては組合役員に就いてはいなかったが、組合役員退任後も債務者会社と他の社員との間で係争中の訴訟事件で社員側証人として証言し、また東京都地方労働委員会で係属している昇格昇進差別に関する不当労働行為救済申立事件の申立人の1人であった。
債務者会社は、平成3年11月22日、債権者に対し、定期人事異動の一環として、同年12月1日付をもって木更津営業所から鳥取県米子営業所への異動を通知した。
債権者は、転勤拒否による解雇を避けるために、米子営業所に単身赴任し勤務をしたが、本件転勤命令が債権者を敵視し、債権者に対する報復としてなしたものであり、無効であると主張し、単身赴任による二重生活を強いられていること、労働委員会での期日への出頭・打ち合わせのための上京に多額の費用を要することなどから、本訴の確定をまっては著しい損害を生ずるとして、「米子営業所に勤務する義務のないことを仮に定める」との仮処分申請をなし、東京地裁はこれを認容した。
判決のポイント
債務者の就業規則には会社は業務上の必要により転勤を命ずることができる旨定められており、債権者も入社に際しては、入社のうえはどこに転勤しても差し支えない旨の書面を差し入れていることが認められ、…
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