伊藤忠商事ほか1社事件(東京地判令4・12・26) 退職申出後、機密情報を私的に保存したとクビ 漏えいないが懲戒解雇有効
退職直前に機密情報をクラウドにアップロードしたとして、懲戒解雇された商社マンが企業年金基金に退職金支払等を求めた。東京地裁は、情報漏えいもなく会社に金銭的損害は生じていないが、機密情報を不正に目的外に利用したとして懲戒解雇相当と判断。退職金不支給もやむを得ないとした。会社が情報を区分して管理しておらず、不正競争防止法には反しないとした。
不競法違反は否定 金銭的損害ないが
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
平成27年7月、総合職として会社に入社し、穀物関係の業務に従事していた甲は、令和2年2月13日、会社に対して3月末日付けで自主退職をする旨の意思表示をした。その後、転職が決まっていたA社へ移る直前の3月19日に、甲は、会社内のシステム上に保存されていた本件データファイル等をクラウドストレージサービスであるGoogle Driveの甲のアカウント領域にアップロードした。
会社は、本件アップロード行為が機密保持違反等の懲戒事由に該当するとして、3月26日に甲を懲戒解雇することを決定し、その旨を本人に伝えた。
これに対し、甲は、本件懲戒解雇は懲戒権および解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条および16条に反し、違法かつ無効で、甲は、予定されていた退職日に自主退職したものであると主張して、退職をする旨の意思表示をした後に、会社から支給に関する説明を受けた変動給(夏季賞与)の按分支払分および遅延損害金の支払いと会社の企業年金基金である会社基金に対し退職金および遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起した。
本判決はおよそ以下のように判示して、懲戒解雇は有効であると判断して甲の請求を退けた。
判決のポイント
(1)不正競争防止法違反に当たるか
社内システム内の…
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