医療法人佐藤循環器科内科事件(松山地判令4・11・2) 賞与支給日の20日前死亡、遺族が支払い求める 病死に“在籍要件”適用せず
夏季賞与の支給日の20日前に私傷病で病死した従業員の遺族が、賞与の支払いを求めた。松山地裁は、病死退職に賞与支給日の在籍要件を適用することは公序良俗に反すると判断。病死は事前に予測できず、在籍要件を適用すれば労働者に不測の損害が生じるとした。算定期間は満了するなど支給額は確定した状態で、受給期待は法的保護に値するとして、全額支払いを命じた。
金額確定した状態 受給の期待を保護
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
本件は、Xの子である亡A(以下「A」という)が、平成21年、Yに正職員として雇用され、Yの運営する有料老人ホーム等で勤務していたところ、令和元年の夏季賞与の支給日の20日前に病死しYを退職したため、当該夏季賞与の支払いがされなかったことに関し、Aの相続人であるXが、Yに対し、未払夏季賞与等の支払いを求めた事案である。
Yの賃金規程には以下の規定が置かれている。
医院は、毎年夏季(考課対象期間:前年10月16日~4月15日)及び冬季(略)の賞与支給日に在籍する従業員に対し、医院の業績、…勤務成績等を勘案して支給する。
Yにおいては、夏季賞与が支給される年の前年の12月に、夏季賞与の見込み額がYの従業員に通知される運用となっていた。見込み額は、基本的に、翌年(当該夏季賞与の支給される年)の月額基本給の額の1.5倍の金額で固定されていた(以下「本件運用」という)。夏季賞与の支給額は、前年の12月に通知された見込み額に増減を加えるべき事情(たとえば、産休や育休などで長期欠勤していた場合等)がない限り、上記見込み額のとおりに決定されていた。
Aは、令和元年の夏季賞与の考課対象期間、継続して勤務していた。
本件夏季賞与の支給日は、Aが死亡した後の令和元年6月28日であった。
判決のポイント
A死亡時点で賞与請求権が発生していたか
本件規程によれば、…
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