アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件(東京高判令5・4・27) 育休中に組織改編、配転や役職変更は不利益か キャリア形成配慮せず違法
37人いた部下ゼロ 話合いも不十分で
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
育休中に組織を改編し、復職した労働者の部署や役職を変更したことが、不利益取扱いに当たるか争われた。一審は、基本給は減少しないなどとして法違反を否定した。東京高裁は、37人いた部下を1人もつけず電話営業に従事させたことは、妊娠前と比べて業務の質が著しく低下し、キャリア形成に配慮せずこれを損なったと判断。復職後の業務の話合いも不十分とした。
事案の概要
甲は、クレジットカードを発行している会社に、平成20年に契約社員として雇用され、22年から正社員となった。26年1月以降、甲は、セールスチームのチームリーダーになり、個人営業部の部長(営業管理職)として37人の部下を持っていた。甲は、27年7月に第二子を出産し、同月から育休等を取得した。
この間、会社は、平成28年1月に、組織変更により、4チームあったセールスチームを3チームに集約するとともに、アカウントセールス部門を新設し、甲がリーダーだったチームは消滅した。甲は、同年8月1日に、育休等から復帰したが、会社は、同日、甲を新設のアカウントセールス部門のアカウントマネージャーに配置した(本件措置1)。部下は配置されず、業務の中心は電話営業であった。
会社は、平成29年3月、甲の復職後最初の人事評価において、リーダーシップの項目の評価を最低評価の「3」とした(本件措置2)。また、会社は、復職した甲に対し、他のフロアにある部屋で執務するように命じた(本件措置3)。甲は、同年7月から傷病休暇および療養休職により休業し、31年4月に復職した。甲は本件措置1~3などが、均等法9条3項および育介法10条、就業規則または民法90条の公序良俗に違反し人事権の濫用であって、違法・無効であるとして、損害賠償等を求めて争った。一審(東京地判令元・11・13、本紙第3282号)は、本件措置の前後を通じて給与の相当割合を占める基本給は減少しないなどとして、甲の請求をいずれも斥けた。これを不服として甲が控訴をした。本判決はおよそ以下のように判示して甲の請求の一部(慰謝料等220万円)を認容した。
判決のポイント
(1)均等法9条3項及び育介法10条違反か否か
一般に基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、…
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