X事件(東京地判令5・6・14) 労働組合にパワハラ糾弾され理事長が賠償請求 ビラ配布で名誉毀損と認定
労働組合が配布したビラに書かれたパワハラ行為は虚偽等として、理事長らが慰謝料等を求めた。ビラには退職目的で異動を命じたことや理事長の似顔絵が書かれていた。東京地裁は、表現は社会的評価を低下させるもので名誉毀損に当たり、組合活動として社会通念上許容される範囲の行為とも認められないと判断。異動を強行した事実はなく、真実と信じる理由もないとした。
真実とはいえない 社会的な評価低下
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、一般財団法人の理事長であって、平成27年2月7日に就任している。また、乙は本件財団の労務部長である。他方、BはA労働組合の代表者であり、執行委員長を務めている。
ビラの配布
AおよびBら(以下、Aら)は、平成30年10月23日から26日までの4日間、本件財団本部前において、「女性職員2名が、甲から受けたパワハラにより業務上労災認定!」等の記載のあるビラ1を配布した。Aらは、10月29日から11月6日までのうち7日間、「女性職員2名が、甲から受けたパワハラにより業務上労災認定!」、等の記載のあるビラ2を配布した。Aらは、12月、甲の自宅の最寄り駅付近において、「△市にお住いの皆様へ 甲は、女性職員にパワハラを行っています」等の記載のあるビラ3を配布し、読み上げるなどの街宣活動を行った。Aらは、平成31年2月の4日間、本件財団本部前において、「パワハラ理事長」、「組合員Cさん(女性職員)は、甲が強行した遠隔地配転により心身に不調を来たし【業務上労災認定】を受けた」等の記載のあるビラ4を配布した。
ビラのブログへの掲載
Aらは、平成30年3月、A労働組合のブログにおいて、「甲は、女性職員に対してパワーハラスメント(退職強要を目的とした配置転換)を行いました」等の記載のあるビラ5を掲載した。Aらは、4月、「甲からのパワハラは継続しています」等の記載のあるビラ6を掲載した。Aらは、平成31年2月、「甲は、女性職員にパワハラを行っています」等の記載のあるビラ7を掲載した(なお、Aらはビラ1~7に甲の似顔絵を掲載することにつき甲の同意を得ていない)。
甲および乙は、Aらに対して、名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起した。本判決は甲に対する請求の一部を認めた。
判決のポイント
(1)本件各ビラによる表現(本件各配布行為及び本件各掲載行為)の意味内容は、…
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