社会福祉法人秀峰会事件(東京高判令5・8・31) 理学療法士を新部門へ配転、無効とした一審は 「著しく不利益」の判断覆す
理学療法士が、リハビリ業務から事務部門への配転無効を求めた事案の控訴審。原審の業務上の必要性はなく、甘受すべき不利益の程度を著しく超えるとした判断を覆して、東京高裁は請求を棄却した。勤務態度が改善せず、労働力を適正に配置する目的から配転の必要性を肯定。技術劣化を考慮することは職種限定の合意があることと同様の結果となりかねず、相当でないとした。
職種限定合意なし 目的は適正な配置
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲法人(一審被告)は、特別養護老人ホームの運営など社会福祉事業を行う法人である。A(一審原告)は、理学療法士の資格を有し、平成17年1月、甲法人との間で、職種や勤務地の限定のない期間の定めのない雇用契約を締結した。
Aは、平成26年から訪問介護リハビリテーション業務に従事していたが、令和2年11月27日に同年12月16日をもって、甲法人本部への異動の辞令交付を受けた(本件配転命令)。その後、Aは本件配転により、法人本部で新規に設立される産業理学療法部門(新部門)の要員となる旨の説明を受けた。
Aは、本件配転命令は無効であるとして、労働審判の申立てを行い、Aの主張を認める審判がなされたが、甲法人が異議の申立てを行い、訴訟に移行した。一審(横浜地判令4・12・9)は、Aの主張を認め、甲法人の不法行為責任(50万円の損害賠償)も認めたが、甲法人が控訴した。一審は、本件配転命令は、そもそも業務上の必要性がないか、仮に業務上の必要性があったとしてもその必要性の乏しいものであり、かつ、実質的に懲罰目的の不当な目的に基づいて行われたものであって、Aに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもので無効とした。Aに生じる不利益について、従前とは大きく異なる業務であるし、患者と接する機会を持たないという意味において、Aがこれまで培った技術やノウハウの劣化を危惧することもやむを得ないとしていた。
本判決はおよそ以下のように判示して、一審判決を取り消して、甲法人の主張を全部認容した。
判決のポイント
(1)使用者が労働者に対する配転命令権を有する場合において、…
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