アンスティチュ・フランセ日本事件(東京地判4・2・25) 賃金減額する無期化提案された講師が差額請求 同一条件での契約更新否定
有期契約だった講師らが、賃金減額を伴う無期契約の契約書に署名しつつ、減額に異議を述べて差額賃金を求めた。東京地裁は、団交で学校側は旧時給を適用しない旨を述べるなど、従前の労働条件で契約更新されたものとはいえないと判断。講師らは労契法19条に基づき旧契約が更新され、その後無期転換したと主張したが、講師らは無期化には応じており同条の適用はないとした。
新時給適用と説明 「期間なし」は合意
筆者:弁護士 野口 大(経営法曹会議)
事案の概要
原告らはフランス語の語学学校の時給制の非常勤講師であり、X1は平成11年、X2は平成15年、X3は平成24年から6カ月または1年契約(本件旧各契約)で勤務している(X1~X3を合わせて「Xら」という)。
Yは、フランス政府からの財政的支援の削減、受講生の減少等を理由として、Xら旧時給表が適用されていた講師らに対して、新時給表が適用される無期契約を締結するか(本件新無期契約)、新時給表とは異なる新しい時給表が適用される6カ月の有期契約(本件新有期契約)を締結するか等の選択肢を提示し、その後Xらの加入する組合との交渉を経てYとXらは、旧時給表が適用される不更新特約付きの6カ月有期契約を締結した(期間は平成30年3月31日まで)。
その後の団体交渉において、Yは本件旧各契約を更新する意思はないこと、Yとしては本件新無期契約または本件新有期契約の締結を求めると回答し、Xらは平成30年2月に本件新無期契約の契約書に署名した。ただし、Xらは本件新無期契約のうち、期間の定めがない部分は受け入れるものの、報酬の減少の部分については異議を留めた。
Xらは同年4月1日以降もYでの勤務を継続し、YはXらに対して新時給表に基づいて報酬を支払った。
Xらは、平成30年4月以降も旧時給表に基づく報酬を受けるべき雇用契約上の地位があると主張し、報酬差額を請求した(講座数減少の補償金に関する請求は割愛する)。
地位確認請求および報酬差額に関する争点は、①本件旧各契約の民法629条1項(期間満了後も労働者が引き続きその労働に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べない場合は、従前と同一の条件で雇用契約が更新されたものと推定する旨の規定)に基づく更新の有無および②本件旧各契約の労契法19条に基づく更新の有無である(本件は地位確認請求を退けた)。
控訴審(東京高判令5・1・18)では労働組合との交渉経緯等(旧時給表による請求を放棄する旨の労働協約もあった)を踏まえ、Xらが「本件無期契約の締結に応じたもの」と判断して控訴を棄却した。
判決のポイント
① 民法629条1項に基づく更新について
Yは、本件旧各契約の期間満了後の平成30年4月1日以後のXらの報酬を新時給表に基づき算出して支払っていた上、…
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