国・岡山労基署長事件(福岡高判令5・9・26) 過重労働といえず脳出血の発症が“業務外”に? 連続勤務で休息少なく労災
脳出血で死亡した労働者の遺族が、労災不支給処分の取消しを求めた事案の控訴審。発症前半年間の残業時間数を平均76時間とした一審に対して、福岡高裁は81時間と認定。始業終業時刻や休憩時間を認定し直した。10日を超える連続勤務を繰り返しており、勤務間インターバルの状況から、業務上災害とした。血圧値は業務起因性を否定する危険因子とまではいえないとした。
残業時間も見直す 危険因子特段なし
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
A(昭和43年生)は平成3年4月1日にシステムや通信機器の開発および販売を主たる事業とする本件会社に入社し、平成24年4月1日から本件会社のB支社が統括するC支店の支店長として勤務していた。
Aは、平成26年4月3日、B支社で開催された会議に出席していたところ、同日午後6時ころ、右被殻出血(本件疾病)を発症し、D病院に救急搬送され、緊急開頭血種除去手術等の治療を受けて、同病院に入院した。その後、Aは、同年5月に福岡県内のE病院等に転医して治療を受けていたが、平成28年3月24日、本件疾病により死亡した。
Aは、平成28年1月13日、処分行政庁に対し、本件疾病が業務による過重負荷を受けたことにより発症したものであるとして、労災法に基づく休業補償給付を請求し、Aの妻である甲は、処分行政庁に対し、Aの死亡後である平成28年6月1日、休業補償給付につき、未支給の保険給付を請求したところ、処分行政庁は、不支給決定(先行処分)をした。
岡山労働者災害補償保険審査官に対する審査請求および労働保険審査会に対する再審査請求をいずれも棄却された甲は、福岡地裁に対し、先行処分の取消しを求めて訴えを提起した(先行訴訟)。福岡地判(令2・6・5)は、甲の請求を棄却し、福岡高判(令3・1・19)も、控訴を棄却した。最高裁は、上告不受理の決定(令3・7・16)をした。
甲は、Aの死亡を受けて、平成30年11月12日、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく遺族補償年金および同前払一時金を請求したところ、処分行政庁は、平成31年1月29日、先行訴訟に係る請求の後続請求であることを理由に不支給決定(本件処分)をした。
審査請求および再審査請求をいずれも棄却された甲は、本件処分の取消しを求めて、福岡地裁に訴えを提起した。一審(福岡地判令4・9・9)は、甲の訴えを棄却したため、控訴を提起した。本判決は、控訴審判決である。
本件の争点は、本件疾病の業務起因性の有無にあるが、本判決はおよそ以下のように判示して、本件処分を取り消したものである。異例の展開を辿っている。
判決のポイント
(1)長時間の加重業務
本件疾病発症6か月間におけるAの1か月当たりの時間外労働時間数は、…発症1か月前及び6か月前はほぼ100時間に及んでいたほか、…
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