神奈川県事件(横浜地判令5・9・13) 同僚への暴行事件で有罪、退職金全額不支給!? 精神疾患理由に処分取消す
同僚らへの暴行やパワハラ、カスハラで懲戒免職とされ退職金も不支給となった元警部が、処分取消しを求めた。暴行事件の裁判では、双極性障害で心身耗弱状態と認定されていた。横浜地裁は、疾患が行動制御能力に与えた影響は著しく、非違行為の責任をすべて負わせるのは相当でないとした。職責等も踏まえ免職処分は有効だが、勤続の功を抹消できず退職金不支給は違法とした。
功労抹消できない 懲戒免職有効だが
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、平成8年4月、神奈川県警察に採用され警察官として勤務し、平成24年3月に警部に昇任した者であるが、令和元~2年にかけて、以下の本件非違行為があった。
① 令和2年2月19日、公務中の警察官2人に対して暴行を加え、うち1人に全治1週間を要する傷害を負わせた。逮捕され、罰金50万円の有罪判決に処せられた。
② 同月4日、飲食店の店員に対して、「ぶっ壊すぞ、この野郎」などと脅迫して畏怖させ、義務のないことを行わせようとした。この件でも逮捕されたうえ、新聞等に報道され、警察の公務に対する信頼を著しく損なわせた。ただし、示談が成立している。
③ 令和2年1月に現行犯逮捕した被疑者の引致や現行犯人の逮捕手続書を作成せず、警察官としての捜査活動を怠った。
④ 令和元年12月~2年1月にかけて、部下に対するパワハラを含め、職員への粗暴な言動等を繰り返し行っていた。これにより体調不良になった者もいるほか、職場環境を悪化させた。
上記本件非違行為①については、刑事裁判において、双極Ⅰ型障害(本件疾患)のために心身耗弱状態であったとの認定がなされている。処分行政庁(県警本部長)は甲に対し、令和2年3月2日、懲戒免職処分とし、退職手当条例(本件条例)に基づき、退職手当の金額(1290万9229円)を支給しないこととする支給制限処分をした。甲は、上記処分がいずれも違法であるとして、その取消しを求めて、訴えを提起した。
本判決はおよそ以下のように判示して、懲戒免職処分は適法としたものの、退職手当支給制限処分については、違法として取り消した。
判決のポイント
(1)本件非違行為は、それぞれ懲戒事由に該当する。
もっとも、鑑定意見によれば、…
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