日本産業パートナーズ事件(東京高判令5・11・30) 競業避止義務違反したと退職金25%のみ支給は 業績退職金の不支給認める
同業他社へ転職した投資職の元従業員が、退職金総額の25%部分に当たる基本退職金のみ支給されたため、残りの業績退職金を請求した事案の控訴審。請求を棄却した一審と同様、東京高裁も、競業避止義務違反は勤続の功を大きく減殺し、著しく信義に反するとした。転職を1年間禁じることに合理性がないとはいえず、態様が故意で悪質なことや貢献度が低かったことを考慮した。
功労を大きく減殺 転職禁止に合理性
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
被控訴人(一審被告)は、投資事業有限責任組合財産の運用・管理と投資事業有限責任組合への出資等を目的とする株式会社である。
控訴人(一審原告)は、被控訴人と、平成24年5月、基本年俸800万4000円で、期間の定めのない雇用契約を締結した。労働契約書には、「退職後の転職等に係る控訴人の誓約事項」として、「控訴人は、…被控訴人を退職するに至った場合に退職後1年を経過する日までは…被控訴人の競合若しくは類似業種と判断する会社・組合・団体等への転職を行わないことに同意する。但し、被控訴人の事前の同意があった場合はこの限りでない」旨の競業避止条項があった。
控訴人は、令和2年1月、被控訴人を退職し、同年2月、A社(プライベートエクイティ投資等を事業内容とする株式会社)と雇用契約を締結した。退職金規程によって算出される控訴人の退職金は、基本退職金178万8000円、業績退職金525万4000円の合計704万2000円であった。被控訴人は、同月、控訴人に対し、基本退職金178万8000円のみを支払った。
控訴人は、訴訟を提起し、①業績退職金525万4000円、②賞与(業績年俸)の残額等を請求した。一審(東京地判令5・5・19)は、原告の請求をすべて棄却し、控訴が提起された。以下、未払賞与請求の争点については割愛する。
控訴審判決は、一審判決をほぼそのまま引用しているため、以下、一審判決と控訴審判決のポイントを記載する。
判決のポイント
一審判決のポイント
退職後の転職を一定の範囲で禁止する本件競業避止条項は、その目的、在職中の職位、職務内容、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら