カーニバル・ジャパン事件(東京地判令5・5・29)コロナ禍で人員削減、整理解雇は認められるか 希望退職募集なくても有効
新型コロナウイルスの影響でクルーズ船が運航できず人員削減が必要になり、会社が退職勧奨に合意しなかった7人を解雇した事案。東京地裁は、整理解雇としたうえで、希望退職者を募集しなかったことをもって解雇回避努力が不十分とはいえないとした。部門で枢要な人員が退職するおそれがあるとした。雇調金を受給しても人件費5割減の目標を達成できる状況ではなかった。
組織存続に影響が 助成金で解決困難
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y1は、米国等に本社を置く世界最大規模の客船運行会社であるAの完全子会社であり、Aが提供するクルーズ船旅行商品の日本における販売等を事業とする株式会社である。Y2は、Y1の代表取締役である。
Xは、平成25年3月、Y1と雇用契約を締結した。
令和2年2月頃、Aが運航するクルーズ船において、新型コロナウイルスの感染者が700人以上確認され、10人以上が死亡する被害が発生した。同年3月から10月まで、米国疾病予防管理センターは、国内でのクルーズ船の運航を禁止した。3月以降、Y1は売上げが全くなくなり、この状態は少なくとも令和4年7月頃まで続いた。
令和2年4月、Y2はAから、世界的に人件費の50%を削減することを決定したこと、Y1においても同様の削減をする必要があることを伝達され、運航停止命令が解除された後に通常業務を再開する際に必要な最小限の人員のみを残す観点から、人員削減案を作るよう指示された。
同年6月2日、Y2は、Y1の従業員(正社員)67人のうち24人を人員削減の対象者とし、人員削減の対象ではない従業員および役員についても給与(報酬)を一律20%減額することを決定した。同月4日頃、Y1は、Xを含む人員削減対象者に対し、特別退職金(Xは月給の約4・7カ月分)の支払いおよび年次有給休暇の買取り、退職日を同月15日とすること(後に同月30日付に変更)などを内容とする退職合意書を交付して、退職勧奨を実施した。
同月26日、Y1は、退職に合意しなかったXを含む7人に対し、30日をもって解雇する旨記載した解雇予告通知書をメールで送信し、同日付で解雇した。Xは、本件解雇が無効かつ違法であると主張して、Y1に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後の賃金等の支払いを求め、Y2に対し、不法行為または会社法429条1項に基づく損害賠償等を求めて提訴した。
判決のポイント
本件解雇は、…いわゆる整理解雇である。
整理解雇は、…①人員削減の必要性…、②解雇回避努力…、③被解雇者選定の妥当性…、④手続の妥当性…の要素を総合考慮して、労働契約法16条にいう客観的合理的な理由及び社会通念上相当性があるかを判断するのが相当である。
Y1は、令和2年6月末の時点において、少なくとも将来にわたり1年程度は、…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら