医療法人社団A事件(東京高判令4・5・31) セクハラで退職者続出、行為繰返す管理職クビ 改善期待できず解雇不可避
管理職からセクハラを受けたとして事務職員が退職したことから、医療法人が加害者である次長を解雇した事案の控訴審。東京高裁も解雇は社会通念上相当とした。注意指導後も行為は繰り返され、職場環境を著しく害したと判断。セクハラの意図はないという弁明は自覚に欠け、改善の期待は困難とした。他の診療所の事務職員も全員女性で、解雇回避措置としての配転も困難だった。
自覚に欠ける弁明 配置転換も難しい
筆者:弁護士 牛島 勉(経営法曹会議)
事案の概要
医療法人である被控訴人(一審被告)との間で雇用契約を締結していた控訴人(一審原告)が、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)を理由に解雇され、解雇は無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位の確認等を求めた事案である。
一審(横浜地判令3・10・28)は、①控訴人は、被控訴人の管理職として、率先して職場環境を改善すべき立場にありながら、平成23年にセクハラと受け止められる言動をし、A診療所の常勤の事務職員からの信頼を失ってその全員が退職する…事態を招いたもので、その後、被控訴人代表者および事務長から注意、指導を受け、自己の言動の問題点を認識し改善する機会があったにもかかわらず、改善することなく、酒席の場のみならず、診療所内においても、女性職員らが不快、苦痛に感じるセクハラ行為を繰り返したから、控訴人の行為は、その職責、態様等に照らして著しく不適切とした。②控訴人は、平成30年のヒアリングの際も、セクハラの意図はなかったなどという弁明を繰り返し、自己の言動がセクハラに該当して不適切であることについての自覚を欠く姿勢を示していたことから、控訴人に改善を期待することは困難であり、③控訴人は、理事長および事務長に次ぐ管理職の立場にあり、その他の職員は医師、看護師、管理栄養士であるから、配置転換等により解雇を回避する措置を講ずることも困難であると認められ、本件解雇は有効であるとして、控訴人の請求を棄却した。
控訴人は、控訴し、一審判決の取消しと請求の認容を求めた。本件は控訴審である。
判決のポイント
平成29年以降に少なくともB診療所3名及びA診療所2名の女性職員に対して控訴人が行った各行為は、女性職員らに強い不快感・嫌悪感や性的羞恥心を抱かせるものであり、…各診療所の女性職員ら6名が被控訴人代表者に対し…セクハラ行為を申告し、…
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