東光高岳事件(東京地判令6・4・25) 定年後に合併、期間満了時の賃金減拒み雇止め 同じ条件で更新期待認めず
定年後に継続雇用された者が、吸収合併した親会社からの賃金減額の更新条件を拒否して雇止めされた事案。東京地裁は、更新回数なども踏まえ同一の条件での更新期待を否定した。更新とは直近の労働条件を指すとしたが、親会社の規程に基づき5割減額に同意した者もいるなど、従前の条件は保障されていないとした。合併後の条件変更の可能性を労働者も認識していたとしている。
5割減でも合理性 変更可能性を認識
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
労働者甲は、乙社の完全子会社でありシステム事業およびソフトウェア事業を主要事業とするA社との間で、期間の定めのない労働契約を締結していた。甲は、令和2年9月30日に定年退職した後、A社の継続雇用規程に従い、同年10月1日から令和3年9月30日までを雇用期間とする有期労働契約を締結した(契約1)。令和3年7月30日、乙社は債務超過の状態となったA社を吸収合併することとし、同年10月1日に実行された。
甲は、A社に対し、契約1の期間満了後も同一の労働条件で労働契約を更新する旨の申込みを行ったが、A社は、令和3年8月23日、甲に対し、乙社と締結する労働契約について、乙社のシニア嘱託規程に基づき、提案①として、管理職として就労する場合(週4日から週5日勤務に増加する一方、基本賃金は約15%減少)と、提案②として、一般職として就労する場合(週4日勤務、賃金は月額換算で約51%減少)の2つの労働条件を提示した。しかし、甲は、これを拒否した。
A社は、同年9月13日、提案①と②の業務内容を詳細に特定し改めて2つの労働条件(提案③および④、本件提案①~④を「本件各提案」)を提示したが、甲は拒否し、契約1の契約期間が経過した。
甲は、乙社に対し、契約1の期間満了時、契約1と同一の労働条件による更新申込みを乙社が拒絶したことは客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められず、契約1の内容と同一の労働条件で有期労働契約が更新されると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金等を求めて提訴したものである。
本判決は、およそ以下のように判示して、甲の訴えを斥けた(編注:控訴審について、本紙令和6年11月11日付第3472号2面参照)。
判決のポイント
(1)労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。
契約1は、高年法…所定の継続雇用制度であるA継続雇用規程に沿って締結されたものであり、…甲は、契約1の期間満了時、A社の地位を包括承継した乙社との間において、労働条件を問わず新たな労働契約が締結されることについては、これを期待することに合理的理由があると認められる。
他方で、契約1は、…
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