懲戒処分等取消請求事件(最一小判令6・6・27) 飲酒運転して物損事故、退職手当なしは違法か 原審覆し全部不支給を認容 ★
飲酒運転や物損事故等を理由に公務員の退職手当を全額不支給とした事案。不支給処分を取り消した一審判断を維持した原審に対し、最高裁は、処分に裁量権の逸脱濫用はないとして取消請求を棄却した。被害は弁償され懲戒歴もなかったが、事故を起こしたまま帰宅し悪質なこと、警察官に虚偽の説明をし不誠実なこと、公務に対する住民の信頼を大きく損なったとしている。
処分歴なく弁償も 悪質かつ不誠実で
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、普通地方公共団体である上告人の職員であった被上告人が、飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、退職手当管理機関である大津市長から、大津市職員退職手当支給条例により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けたため、上告人を相手に、上記各処分の取消しを求めた事案である。一審(大津地判令3・10・14)は、退職手当の支給制限処分を取り消し、原審(大阪高判令4・7・13)は控訴を棄却した。
被上告人は、平成3年4月に上告人の職員に採用され、平成29年4月以降、総務部a課長の職にあった。被上告人には、本件懲戒免職処分を除き、懲戒処分歴はない。
被上告人は、平成30年8月7日午後5時頃から10時30分頃まで、自宅からの転居を予定していたマンションの一室で、同僚らを招いて飲食し、ビールおよび酎ハイ各1本並びに発泡酒5本程度(いずれも350ミリリットル)を飲んだ。
被上告人は、同日午後11時頃、約5キロメートル離れた自宅に帰るため、借り受けていた自動車に乗ってその運転を開始したところ、本件マンションの立体駐車場内において、本件自動車の前部を駐車中の他の自動車の前部に接触させてそのフロントバンパーを脱落させる事故(以下「第1事故」という)を起こした。被上告人は、第1事故につき直ちに本件マンションの管理人や上司等の関係者に連絡することなく本件自動車の運転を続けたところ、さらに、本件自動車を道路の縁石に接触させ、縁石に設置された反射板をはがして本件自動車にオイル漏れを生じさせる事故(以下「第2事故」といい、第1事故と併せて「本件各事故」という)を起こしたが、そのまま本件自動車を運転して帰宅した。
被上告人は、翌8日朝、本件マンションに赴き、管理人に第1事故を起こした旨を伝えるなどした後、警察に通報した。被上告人は、臨場した警察官に対し、当初、同日の朝に第1事故を起こした旨の虚偽の説明をしたが、警察官から前夜の事故ではないかと指摘を受け、その旨を認めた。また、被上告人は、上司に電話して第1事故を起こしたこと等について報告し、後日、本件各事故に係る物的損害について被害弁償を行った。
判決のポイント
大津市職員退職手当支給条例…の規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解され、その判断は、…
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