住友生命保険(費用負担)事件(大阪高判令6・5・16) 保険外交員が賃金控除された物品代返還求める 営業費の負担に包括的合意
営業先で配る物品代を負担した職員が、賃金全額払に反するとして争った事案の控訴審。大阪高裁は、一審が否定した印刷費を含め、営業費の負担に包括的に合意したと判断。業務遂行の裁量があり、負担は年収の5%を下回っていたことを考慮して自由意思の効力を認めた。合意には賃金控除の合意を含むとしたうえ、本人が同意できない旨告げるまでの控除を有効とした。
“自由意思”と認定 裁量や金額を考慮
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、生命保険会社であるYの営業職員であるXが、Yに対し、①Yが賃金から業務上の経費を控除したことは労基法24条1項に違反する等として、控除相当額の金員の支払いを求めるとともに、②Yの業務のために携帯電話を使用したとして、その利用料金相当額の金員の支払いを求めて提訴した事案である。
XとYは、委嘱契約を経て、平成5年3月に雇用契約を締結した。Yは、委嘱契約締結前後に研修を行い、営業職員が営業活動費用を負担する旨の説明を行っていた。また、Yは、営業活動費は個人負担である旨が記載された勤務のしおりをXに交付する等した。ただし、当時、就業規則には、所定の営業活動費を賃金から控除する旨の規定はなかった。またYは、Yの全従業員が加盟する訴外組合との間で、「賃金控除に関する協定」を締結し、毎月の給与から所定の費目を控除することができる旨を定めていた。
平成24年10月分から令和2年3月分まで、Xの賃金からは、(1)「携帯端末使用料」、(2)「機関控除金」、(3)「会社斡旋物品代」(これらを合わせて、以下「本件費用」)が控除されていた(以下「本件費用控除」)。営業活動において、(2)および(3)に係る物品の利用は、各営業職員の判断に委ねられていた。給与における営業活動費用の負担割合は、平成31年度において、おおむね年収の5%以下であり、Xについては、平成24年から令和3年にかけて、おおむね1.2~4.9%であった。
Xは、携帯電話を2回線契約し、そのうちの1つの通話およびショートメール送信の相手は、ほとんどがYの顧客またはXが営業活動をしていた未加入者であったが、営業活動との関連性が必ずしも明らかではない相手も含まれていた。
Xは、平成30年11月、Yに対し、(2)に関して、31年1月以降、本件費用控除に同意できない旨通知した。
一審判決(京都地判令5・1・26、本紙第3417号)は、まず、労基法24条1項但書は、事理明白なものについてのみ、労使協定によって賃金から控除する趣旨であるとし、労働者がその自由な意思に基づいて控除することに同意したものであれば、これに該当するとして、本件費用控除は同項に違反しないとした。そのうえで、営業活動費全てをXの負担とする旨の合意(以下「本件合意」)は存在しないが、Xは自由な意思に基づく個別合意により、本件費用についてXの負担とする旨を許容することは可能であり、本件費用の一部(募集資料コピー用紙トナー代)を除き有効な個別合意が成立していたとして、上記①の請求を一部認容した。また、本件携帯電話がYの業務のためにのみ使用されたと認めることはできないとして、上記②の請求を棄却した。
これに対して、X、Yが控訴したのが本件である。
判決のポイント
Xは、Yから、…営業職員が営業活動費用を負担する旨の説明を受け、…勤務のしおりの交付を受け、その後、特段の異議を述べることなく、継続的に本件費用に係る物品等の注文申込みをしている…。…本件合意が成立したというべきである。
労基法89条5号が…
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