社会福祉法人A事件(東京高判令6・7・4) グループホームで泊まり勤務、割増賃金単価は 夜勤手当のみの合意認めず
グループホームで泊まり勤務する生活支援員が、夜勤手当のみを割増賃金計算の基礎とした一審を不服として控訴した事案。東京高裁は、夜勤について日中と異なる時給が許されないわけでないが、その合意は趣旨や内容が明確な形でされるべきと判示。夜勤の労働時間性を争ってきたことを指摘して、合意がなかったと判断した。夜勤は不活動時間も含めて労働時間とした。
異なる時給は可能 趣旨内容明らかに
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y法人は、社会福祉法人であり、複数の福祉サービス事業所を運営している。Xは、平成14年7月にY法人との間で期間の定めのない雇用契約を締結し(平成31年2月25日当時の雇用契約を以下「本件雇用契約」)、4カ所のグループホームにおいて、入居者の生活支援を行っていた。
Xは、午後3時から9時まで勤務し、そのまま宿泊し、翌日午前6時から10時まで勤務するという勤務形態であった。Xの日中における業務の主な内容は、入居者が外部通所施設から帰所した時の出迎え、入浴の介助、洗濯、入居者の部屋の片付け、食事の支援、就寝の支援、朝食の準備、清掃、外部通所施設への送出し、日用品等の買出し、日報等の書類作成、入居者の家族との連絡である。
夜勤時間帯に行われた業務の内容等は、その夜に勤務した生活支援員が翌朝の勤務終了時に所定の「夜間支援記録」に記載していた。4カ所のグループホームの記録には「安全管理」、「見回り」および「居室チェック」の定型文言にチェックがされている一方、特記事項として、施設Aで2日続けて台風に関連して対応した旨や空調タイマーを操作した旨(約5カ月で15回程度)の記載があるほか、施設Bでは複数の入居者が頻繁に深夜または未明に起床して行動し、これに対応したことが記載されていた。
Xは、Y法人を相手に、労働基準法37条に基づき、平成31年2月から令和2年11月までの夜勤時間帯の就労にかかる未払割増賃金および労基法114条所定の付加金等の支払いを求めて提訴した。
一審判決(千葉地判令5・6・9)は、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当すると認めつつ、夜勤手当6000円を夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価とすることが労働契約の内容となっていたと認定し、Yにおける夜間時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価を750円としてこれを基にXの請求を一部(約2割)認容したところ、Xがこれを不服とし控訴した。
判決のポイント
労基法32条の労働時間とは、…労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に定まる…から、…実作業に従事していない時間であっても…
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