乙山株式会社事件(大阪地判平25・11・19) 不明朗な金銭授受により懲戒解雇、裁判で理由追加 処分事由の後付けできない
不明朗な金銭授受を理由に懲戒解雇し退職金不支給としたところ、その無効を求めて提訴された事案。会社はその後の着服・背任も密接に関連すると主張したが、大阪地裁は交付した「解雇理由書」に記載はなく処分の意思があったとはいえないうえ、対外的信用の低下は軽微などとして、解雇は行為の性質や態様に照らし相当性を欠き無効とした。
態様に照らし無効 信用の低下も軽微
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
Y社は、室内装飾の設計施工等を営んでいる。Xは、Y社から平成23年3月15日をもって懲戒解雇されたが、懲戒解雇が無効であると主張し、退職金差額等を請求した。Y社には退職金規定Aと、中退共との退職金共済契約に基づき退職金が支給される退職金規定Bが存在し、Y社は、平成15年1月をもって退職金規定AからBに変更したと主張した。
Xは、平成21年11月から12月まで、A小学校の内装工事に従事し、職人の手配や報酬の支払等の事務を担当した。Y社は、Fら職人に小学校の内装工事を依頼していたところ、Xは年内に経理処理を完了させるべく、工事が終了する12月25日までに報酬を全部請求するよう職人らに指示した。しかし、数人の職人から同月16日分以降の請求書が提出されていなかった。また、別の工事を担当するJが提出した同月16日分以降の請求書の報酬額は、Xが設定した基準に達しないため、Xは小学校の工事による利益からJに報酬を追給しようと考えた。そこで、Xは、12月下旬、小学校の工事に従事した職人3人の同月16日以降の報酬とJに対する追給分の報酬として合計82万円を、Fの請求額に加えて請求し、Y社から支払いを受けた後で、82万円をX個人名義の預金口座に送金するよう依頼し、Fはこれに応じた。平成22年1月、Y社はFの口座に289万余円を送金し、翌日、Fは82万円をXの預金口座に送金した。その約1年後、Y社は本件金銭授受を把握し、Xから事情聴取を行った。Xは、82万円は職人への支払いに充てた旨説明し、職人3人とJの領収証を提出した。
Y社は、平成23年2月14日、本件懲戒解雇を通知した。Xは、その後も、懲戒解雇発効日とされた3月15日まで就労し、同期間の賃金も受領した。…
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