日本赤十字社事件(甲府地判平24・10・2) 介護職員がうつ病自殺、過重労働を理由に賠償請求 長時間労働から予見が可能
病院の介護職員がうつ病を発症し自殺したのは、過重労働が原因として損害賠償を求めた事案。甲府地裁は、心身の健康を損なわないよう注意する義務について、指揮監督する上司が権限を行使すべきとしたうえで、自殺前1カ月の残業が約166時間に及ぶなどタイムカードから長時間労働を認識でき、予見可能性があったと判示。発症の具体的認識まで要しないとした。
上司が監督すべき 発症認識なくても
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、被告日本赤十字社(Y)の運営するリハビリテーション施設で、介護職に従事していた甲野一郎(K)が自殺により死亡したことについて、Kの妻である原告甲野花子および子である原告甲野太郎と甲野次郎が、Kは長時間かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず、YがKの心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため、うつ病エピソードを発症し、自殺するに至ったと主張して、Yに対し、不法行為ないし債務不履行に基づき、合計8895万円余の損害賠償等を請求した事案である。
判決のポイント
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の前記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである(最二小判平12・3・24)。
長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険性のあることは周知の事実であり、…
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