慶應義塾(シックハウス)事件(東京高判平24・10・18) 体調不良で退職後に職場のシックハウス原因と提訴 安全配慮義務違反で賠償を
新校舎建設までの仮設棟の勤務でシックハウス症を発症し退職を余儀なくされたとして、元職員が大学に対し損害賠償などを求めた訴訟の控訴審。東京高裁は、職員8人のうち7人が同様の診断を受けるなど仮設棟の化学物質で発症と推認。通行や出入りの場所に発症を招く濃度、量の化学物質が存在しないようにする配慮を怠り、安全配慮義務違反で慰謝料支払いを命じた。
他の勤務者も発症 濃度など測定必要
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
平成14年4月1日にYのCセンターに1年間の有期雇用の助手として採用されたXが、Cセンターが平成15年3月、新校舎建設のため仮設棟Aに移転したことに伴い同月11日から仮設棟Aで勤務していたところ、同月24日から体調不良のため欠勤し始め、同年4月12日以降は出勤できなくなり、平成15年7月12日付けで同月31日限り退職する旨の退職願をYに提出した。
Xが、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や就労可能となった平成18年8月以降の給与の支払い、雇用契約上の安全配慮義務違反などによる医療費や慰謝料などの損害賠償を請求した事案である。
一審(東京地判平21・3・27)は、Xの疾病は業務上の疾病とは認められないとしたが、慰謝料の支払いについては200万円の限度で認容し、X、Y双方がこれを不服として控訴した。
本件の主な争点は、①Xが欠勤し、出勤できなくなったのは、仮設棟Aでシックハウス症候群などにり患したためか、②Xの退職願は、私傷病と誤信したためで錯誤無効か、である。本稿においては、争点①について検討を行う。
判決のポイント
訴訟上シックハウス症候群…が発症したとの認定をするにあたっては、…特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性が証明されれば足りるものであり、その判定は、通常人が疑(ママ)を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りると解する(最二小判昭50・10・24)。…
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