技術翻訳事件(東京地判平23・5・17) 賃金減額に異議述べず受領し続け退職後に差額請求 承諾や事後の追認なく無効
翻訳会社の制作部次長が、業績悪化による賃金20%減額を了承せず、退職後に差額等を求めた。東京地裁は、減額の合意は書面化するのが望ましいとしたうえで、黙示の承諾があったというためには、労働者に対して明示的な承諾を求めなかったことの合理的理由が必要と判示。減額に異議を述べず賃金を受領し続けても、事後的に追認したとは認められず減額無効とした。
意思明示を求めず 黙示の同意もない
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、被告の従業員であった原告(平成21年9月30日退職)が、被告に対し、①平成21年6月分以降の賃金減額は無効であるとして、減額分の賃金の支払いを、②原告の退職は会社都合として扱われるべきであるとして、自己都合退職として支払われた退職金との差額の支払いを、③被告により、平成21年6月分以降の賃金を一方的に切り下げられ、同年9月以降はさらに労働条件を切り下げられることを通告され、退職を余儀なくされたことは、原告に対する不法行為に該当するとして、慰謝料200万円の支払い等をそれぞれ求めた事案である。
判決のポイント
1、賃金の額が、雇用契約における最も重要な要素の一つであることは疑いがないところ、使用者に労働条件明示義務(労働基準法15条)及び労働契約の内容の理解促進の責務(労働契約法4条)があることを勘案すれば、いったん成立した労働契約について事後的に個別の合意によって賃金を減額しようとする場合においても、使用者は、労働者に対して、賃金減額の理由等を十分に説明し、対象となる労働者の理解を得るように努めた上、…
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