通販新聞社事件(東京地判平22・6・29) 他社書籍にデータ流用した編集長を解雇し社告掲載 名誉毀損で謝罪広告命じる
業界紙の編集長が、他社の書籍に同紙掲載の図表を無断使用したことなどを理由に懲戒解雇されたため効力を争った。東京地裁は、使用許諾を得ていたとしたうえで、印税収入の私物化や名声の独占など身勝手な動機はなく懲戒事由には該当しないと判示。社告での解雇の公表は名誉棄損に当たり慰謝料200万円を支払うほか、同紙とウェブ版に謝罪広告の掲載を命じた。
事前に使用を許可 懲戒事由は不存在
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している株式会社である。原告は、平成5年11月、被告との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。
原告は、平成19年12月ころ、株式会社A社より「図解入門業界研究最新通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版についての打診を受けたので、同月25日ころ、被告代表者に対し、被告が作成して通販新聞に掲載したグラフやランキング表等(以下、「本件図表等」)を本件書籍に使用したいと報告したところ、同人は「いいんじゃないか。宣伝になるし、やれば」と答えた。
原告は、「通販新聞執行役編集長」の肩書で、本件書籍を執筆して、A社は出版した。
本件書籍が完成した後の平成20年6月末ころから、大手通販業者の数社が、被告に対して、本件書籍の「カラクリ」という表現が通販業界全体の信用を損なうなどという苦情を寄せた。同月27日、被告代表者は、それまでと打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、同年7月1日、本件図表等を本件書籍に無断で使用したうえ、被告の信用を損なったなどという理由で、原告に対し、口頭で懲戒解雇の通告を行った。…
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