奈良県(医師時間外手当)事件(大阪高判平22・11・16) 産科医の宿日直勤務をすべて労働時間とした判断は 全体にわたって指揮命令下
県営病院の産科医が、当直勤務は時間外労働に当たるとして割増賃金を求めた事案で、大阪高裁は、労基署は「断続的な宿日直勤務」として許可したが、救急患者への対応は通常業務そのもので、「業務命令に基づき指揮命令下にある」と判断した一審判決を支持。一方、応援要請に備えて自宅待機する「宅直勤務」は、医師の自主的な取組みで労働時間には当たらないとした。
通常業務そのもの 「断続的」ではない
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
奈良県立病院(乙病院)の産婦人科の勤務医である甲(医師2人)が、宿日直勤務および宅直勤務の時間は、労働時間(労基法32条)であり、時間外・休日勤務(37条)であるとして、乙病院を設置する奈良県に対し割増賃金の支払いを求めた。
乙病院は甲に対し、本来の勤務以外に交代で宿日直勤務を命じているほか、甲を含む病院の産婦人科医師(5人)は、宿日直勤務以外に、自主的に「宅直」当番を定め、宿日直の医師(1人)だけでは対応が困難な場合に、宅直医師が宿日直医師に協力し診療を行っていた。
第一審(奈良地判平21・4・22)は、宿日直勤務は、断続的労働に当たらないとして、県に対し時間外手当の支払いを命じる一方、宅直勤務は、使用者の指揮命令下になく、労働時間には当たらないと判断した。本件は、甲および県がいずれも控訴した第二審の判決である。
判決のポイント
産婦人科医の分娩管理への関わり等からすれば、①入院患者の正常分娩といえども、これに対する産婦人科医の立会が、病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈などと同様の、労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さい労働と認めるのは相当ではなく、…
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