川口労働基準監督署長事件(東京高判平24・1・31) 持病の喘息を悪化させ死亡、業務と因果関係あるか 半年間の過重労働で重傷化 ★
持病の喘息を悪化させ死亡した製パン会社の係長について、労災不支給処分を取り消した一審を不服として、国が控訴した。東京高裁は、業務上の過重負荷で症状が増悪し、業務に内在する危険が現実化したと判示。死亡前の半年間は、月平均80時間を超える長時間労働や、勤務のうち夜勤の割合が半分にも及ぶ交替制勤務に従事し、質量とも過重と認め、請求を棄却した。
残業は平均80時間 夜勤がほぼ半分に
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
本件訴えの原告甲の夫であるAは、パン、洋菓子等の製造販売を生業とする株式会社神戸屋の東京事業所業務課物流の係長として勤務していたところ、平成14年7月29日午後4時頃、当時居住していたマンションの通路で倒れているのが発見され、救急車臨場時には既に死亡していたが、その後、喘息発作によって心臓停止に至り死亡(喘息死)したことが確認された。
甲は、Aの喘息死が会社における業務に起因するものであるとして、川口労働基準監督署長(処分行政庁)に対し、労災保険法に基づく補償の支給を請求したが、処分行政庁は、平成17年7月27日付けで甲に対し、これを支給しない旨の本件処分をした。これに対して、甲は、処分行政庁に対し、Aの喘息死は会社の過重業務に起因するものであるから本件処分は違法であるとして、その取消しを求めた。
第一審(東京地判平22・3・15)は、Aの喘息死は業務に起因するものと認められるとして、甲の請求を認容したところ、処分行政庁はこれを不服として控訴したものである。
本件の争点は、Aの喘息死と会社におけるAの業務との間に相当因果関係が存するか否かという点にあるが、本判決は、およそ以下のように判示して、第一審に続き、甲の請求を認容した。…
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