新聞輸送事件(東京地判平22・10・29) 酔った派遣社員へのセクハラで降格のうえ年俸減額 処分は妥当だが減給は無効
新聞輸送会社の営業所次長が、酒に酔った女性派遣社員へセクハラをし、解決に当たった総務部副部長とともに降格となったため2人が処分取消しを求めた。東京地裁は、行為の態様や被害者への配慮を欠く態度等から各処分は人事権の裁量の範囲内で有効としたが、年俸を同意なく減額できる旨の合意は成立しておらず、減額できる権限もないとして差額の支払いを命じた。
人事権の範囲でも カットに同意必要
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
本件は、Yと雇用契約を締結するX1(営業所次長)およびX2(総務部副部長)が、降格処分の無効を主張して、降格前の地位あるいは降格前に相当する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金支払請求権に基づいて、降格後の賃金と降格前の賃金月額との差額賃金の支払い等を求めた事案である。
平成19年5月24日、X1と派遣労働者Aらは飲食をした。同日深夜、X1はAに対して帰宅途中のタクシー車内において、スカートの右裾を腰付近まで引き上げて下着を露出させた。Aは、上司であるX2に対してセクハラの被害の申告を行ったが、X2は、X1の言い分を正しいものと安易に考え、この申告に真摯に対応をしないどころか、Aに対して不謹慎かつ不適切な言動を行った。また、X2はYに対してもX1の説明が真実であるとの判断を前提とする報告を行った。
その後、Yは、平成19年8月にX1を10月付けで営業所次長から営業所副所長に昇格する人事異動を決定した。X1の昇格を知ったAは、Yを辞める決心をするとともに、労働組合に相談をし、労働組合も団交において取り上げることとしたところ、これを知ったYは、セクハラが適切な形で解決していないと判断して、X2を担当から外し、改めて調査を行った。
Yは、11月付けでX1の営業所副所長の職を解き、2階級の降格処分を発令(年俸は770万円から680万円へ引下げ)し、X2に対しては、1階級の降格処分を発令した(840万円から800万円へ引下げ)。
判決のポイント
本件行為の態様は、被害申告事実のとおりであって、…Aの意に反してなされたAの羞恥心を害する態様での身体に対する違法な有形力の行使である。…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら