学校法人尚美学園事件(東京地判平24・1・27) 採用後に前職のトラブルが発覚した大学教授を解雇 自ら告知する法的義務なし
財団法人の常務理事を専任教員に迎えた大学が、その後、前の職場でセクハラ・パワハラで告発されていたことなどが明らかとなったことから、3年前の採用時に問題を告知しなかったのは信義則に反するとして、普通解雇した。東京地裁は、自発的に告知する法的義務はなく解雇無効と判示。応募者が不利益な事項を秘匿する可能性も踏まえ、慎重に審査すべきとした。
雇う前の調査不足 信義則にも反せず
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、被告の設置する大学の教授である原告が、被告に対し、以前の勤務先において、パワー・ハラスメント(パワハラ)およびセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)を行ったとして問題にされたことを告知しなかったことなどを理由に、原告を解職(普通解雇)した。
原告は、被告に対し、本件解雇が無効であるとして、①労働契約上の権利を有する地位の確認および②賃金・賞与の支払いを求めるとともに、③不法行為に基づく損害賠償の支払い、④名誉毀損における原状回復として、謝罪文の交付、掲示および送付を求めた。
判決のポイント
(1)採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は、公人であって、豊かな人間性や品行方正さ…が求められるとの被告の主張は首肯できるところではあるが、採用の時点で、応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。…
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