X生命保険事件(東京地決平22・9・30) 競業避止に合意した元役員へ転職差止めを求めたが 退職から1年間に限り禁止
生保会社が退職した執行役員に対して、「競業避止合意」に基づき2年間の転職差止めを求めた事案。東京地裁は経歴から他社の要職に就く可能性は高く、営業上の利益を侵害するおそれがあると判示。得ていた営業上の秘密は時々刻々と変化する情報が多いうえ、厚遇な報酬は競業避止条項に対する代償であることや職業選択の自由を勘案して1年間の競業行為を禁止した。
営業上の利益侵害 高報酬は代償措置
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
債権者は生命保険会社であり、特にがん保険および医療保険について保険業界内においてトップシェアを占めている。
債務者は、債権者の執行役員であるが平成22年9月30日付で債権者を退職し、同年10月1日付でY生命保険株式会社に就職することが予定されている。
執行役員契約書では、契約期間は1年間とされ、競業避止義務として「債務者は、執行役員の地位および待遇に鑑み、…本執行役員契約終了後2年間、債権者の業務と競業または類似する業務を行う他社の役員、従業員にならないこと…に同意する」旨の規定がある。
債権者は債務者に対し競業避止条項に基づき、Y生命の取締役、執行役および執行役員の地位に就任すること並びに同社の営業部門の業務に従事することについての差止めを求めた。
決定のポイント
退職後の競業避止義務を定める合意は、使用者の正当な利益の保護を目的とすること、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、使用者による代償措置の有無等の諸事情を考慮して、その合意が合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害する場合には、公序良俗に反するものとして無効となる。
競業避止条項の目的は、債権者の営業上の秘密及び保険代理店との人的関係の維持を実質的に担保することにある…ただし、人的関係は、…
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