本田技研工業事件(東京地判平22・12・1) 石綿ばく露で中皮腫に、合併した親会社に賠償請求 安全配慮義務も包括し承継
整備工が退社後に中皮腫を患ったのは、在職中の石綿ばく露が原因として、工場を吸収合併した親会社に損害賠償を求めた。東京地裁は、親会社にとって、工場は実質直営の位置付けで、指導員も出向させており危険性を認識できたと判示。一方、工場では保護具着用を義務付けなかった等、安全配慮義務に違反していたとして権利義務を包括承継した親会社の責任を認めた。
危険性の認識可能 当時指導員が出向
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Xは、昭和43年4月に、A社に入社し、昭和44年11月までの1年7カ月間、自動車整備工としてA社の名古屋北工場(A社工場)で就労し、同年11月以降、フロント担当に変更となった後で、昭和44年12月にA社を退社した。
XはA社退社後、昭和45年11月から洋食系飲食店を40年近くにわたり経営してきた(他に農業も営んできた)。
A社工場には、大型、小型扇風機が設置されていたが、自動車の排気ガスを排出するための設備にすぎず、粉じんを除去する機能を持つものではなかった。Xら整備員は、毎日作業終了後にほうきとちりとりにて床面の掃き掃除を行い、床面の水洗いもしていたが、床面にはブレーキライニングの摩擦屑を含め、粉じんや埃等がしばしば堆積し、作業を行ったり、床面の掃き掃除を行うたびに、堆積していた粉じん等が舞い上がった。
Xの具体的作業は、ブレーキドラムの清掃、ガスケット交換、フリクションディスクの交換などであったが、うち前2者については、作業者の周囲に相当時間にわたって粉じんが滞留したり、屑の固まりや粉じんが直接に作業者の顔や頭に降りかかったりしていた。…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら