富士ゼロックス事件(東京地判平23・3・30) 勤怠の虚偽申告で退職したが錯誤による無効を主張 懲戒解雇されると誤信した
40歳の女性従業員が、出退勤時刻の虚偽申告などを追及され退職したが、錯誤の意思表示を理由に雇用契約上の地位確認を求めた。東京地裁は、女性は退職するか懲戒手続きを進めるかを問われ、退職しなければ懲戒解雇になると誤信し、退職金不支給や再就職への悪影響を避けるため退職の意思表示をしたと判示。動機や態様は悪質とはいい難く、処分は重すぎるとした。
二者択一の選択に 態様から処分重い
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、平成元年3月短期大学を卒業した後、同年4月1日、カラー複写機等のオフィス機器の製造・販売を主な業務とする会社との間で雇用契約を締結し、営業職等として働いた。
甲には、フレックスタイム制が適用されていたところ、平成20年12月26日、午前10時18分ころに出社したが、出勤時刻として「午前9時31分」と虚偽入力した。これに気付いた甲の上司A、Aから報告を受けた会社の人事部らが、平成21年1月9日から同年3月11日までに計4回の事情聴取を行い、その都度、甲から顛末書を提出させた。
会社の人事担当者らは、平成21年3月11日、甲の不正請求(勤務時間について虚偽申告を行い残業手当を過剰に受給したこと、事実と異なる交通費等を過剰に受給したこと)について、甲に対し、自主退職するか、懲戒手続きを進めるか、尋ねたところ、甲は、翌12日、自主退職する旨回答した。
会社は平成21年5月15日、甲に対し、「2008年11月から翌年1月の間に、実際の出退勤時刻と異なる時刻を29回…不正入力し、…早出・残業手当を過剰に受給した。架空の出退勤時刻を入力することは、『労働時間を正しく入力する』という社員としての義務に違反し、会社と社員との間の信頼関係を破綻させる重大な規律違反である。さらに、事実と異なる外出旅費および通勤交通費を請求し、手当を過剰に受給し…
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