中部電力事件(名古屋地判平21・7・7) 退職後に中皮腫で死亡、安全配慮義務の発生時期は じん肺法制定で予見可能に
火力発電所の労働者が退職後に中皮腫で死亡したのは、石綿粉じんのばく露が原因として損害賠償を求めた。名古屋地裁は、じん肺法制定以降、粉じん業務に従事させる時点で石綿被害の予見可能性があり、安配義務を負うと判示。保護具を備え付けず、着用を指示しなかったことは義務違反に当たり、ばく露から発症までの潜伏期間等から死亡との相当因果関係を認めた。
注意喚起を怠った 潜伏期間にも照応
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
亡Aは、昭和33年に被告会社に入社し、主に火力発電所において運転・試運転等の業務に従事し、平成11年7月に定年退職したが、その後同17年2月ころから中皮腫を発症し、同年5月に悪性中皮腫と診断され、同18年9月に悪性胸膜中皮腫により死亡した。
被告の火力発電所においては、①ボイラーやタービン、配管等に、保温・断熱材として石綿を含有する部材が巻き付けられ、②設備機器室、予備電源室等の防音材・断熱材として石綿を含有する吹き付けがされ、③建物の耐火ボードや床材、変電設備の変圧機の防音材等に石綿を含有する製品が使われていた。
労働基準法上の事業主の災害補償責任および労災補償における業務上疾病の範囲についての厚生労働省労働基準局長の行政通達「石綿による疾病の認定基準について」(平18・2・9基発第0209001号)によれば、石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫であって、次の(ア)または(イ)に該当する場合は、労働基準法施行規則別表第1の2第7号7の「石綿にさらされる業務による中皮腫」に該当する。
(ア)じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
(イ)石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。…
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