バイエル薬品ほか事件(東京高判平21・10・28) 退職年金を廃止し一時金へ変更、一審無効としたが 制度改廃条項に照らし有効
会社分割で退職年金支給債務を負う承継先が、年金を廃止し一時金としたため退職者が無効を求めた。一審は請求を認めたが東京高裁は、経済情勢の変化等に応じた「改廃条項」は合理性があり、年金が将来の経営圧迫要因になり得るとして廃止の必要性を認定。代償の一時金は、年金総額と計算上は等価に等しく、変更に多数の受給者の同意もあるとして一審を取り消した。
経営圧迫する要因 額の不利益小さい
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
A社(バイエル薬品株式会社)は、就業規則により、一時金または年金による退職金制度を定め、これを税制適格退職年金制度として運用していたところ、退職した甲は、A社との間で、終身の退職年金を受給する権利を取得した。
その後A社が、甲の在籍していた部門をB社(ランクセス株式会社)に譲渡し、B社は甲に対する退職年金支給義務を承継したところ、税制適格退職年金制度を廃止するとともに、退職年金を一時金の支払いに変更することを決め、甲に対し退職年金に代えて一時金を供託した。
本件は、甲が、退職年金を一時金の支給に変更することはできないとして、A社およびB社が終身の間、退職年金を甲に支払う義務を有することの確認を求めたものである。これに対し、A社およびB社は、①年金規約には、退職年金制度を改廃することができる旨定められているところ、B社は、規約に基づき退職年金の支給を変更したものであり、②甲は、供託金を異議なく還付して、退職年金を一時金に変更することを承諾した等と主張して、甲の請求を争った。原審(東京地判平20・5・20)が、甲の請求を認容したため、A社およびB社が控訴した。
主な争点は、退職金制度を廃止して、一時金を支給することの合理性如何である。…
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